公募研究
ネコのマタタビ反応の舐める、噛む、頬や頭を擦り付ける、地面にごろごろ転がる反応の中でどの行動が一番重要であるか調べることにした。その結果、ネコは壁や天井に提示されたネペタラクトールを含んだ濾紙に対しても顔や頭を何度も擦り付けたが、床に提示した時に特徴的であったごろごろ転がる反応を示さないことを見出した。またネペタラクトールによってマタタビ反応を示したネコの顔や頭の被毛には、ネペタラクトールが付着していることもネコによる行動試験で確認できた。これらの結果より、マタタビ反応で一番重要な行動は、ネペタラクトールを顔や頭に擦り付ける行動であることが明らかになった。ネペタラクトールに何か別の生物活性があるのではないかと考え、イリドイド化合物に関する様々な文献を検索した。その過程で、キャットニップから放出されるネペタラクトンに蚊の忌避活性があるという報告を見つけることができた。そこで日本で代表的な蚊の一種ヒトスジシマカを使いネペタラクトールやマタタビに対する活性を早速調べてみると、ネペタラクトールやマタタビの葉にも蚊を忌避する強力な活性が認められた。更にマタタビ反応したネコが本当に蚊に刺されにくくなるか以下のような実証実験を行った。マタタビの葉に擦り付け反応を行ったネコと何も処置しなかったネコを麻酔した後、蚊の入ったケージに入れたところ、マタタビ反応したネコにとまった蚊の数は、無処置のネコに比べて半減する結果が得られた。以上の結果、ネコのマタタビ反応は、蚊の忌避活性を有する植物成分ネペタラクトールを体に擦り付けるために重要な行動であり、これによりフィラリアなど寄生虫やウイルスなどを媒介する蚊から身を守っていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
長年謎であったマタタビ反応の生物学的な機能を解明することができた。これは、当該分野に大きなインパクトを与えることが出来、研究成果はNatureやScienceのホームページや世界中のメディアで報道された。現在は、引き続きネペタラクトールの嗅覚受容体遺伝子を探索する研究を展開させている。
大麻草に含まれる生理活性成分をカンナビノイドと呼び、脳内の神経細胞に作用してドーパミンを過剰分泌させ動物に鎮痛や多幸感、幻覚を生じさせる。アナンダミド、2-AG、オレアミドはエンドカンナビノイドと呼ばれ、脳内マリファナ類似物質である。なおオレアミドは、睡眠を途絶したネコの脳脊髄液から分離された。そこでマタタビ反応前後のネコの脳脊髄液を調べ、エンドカンナビノイドがマタタビ反応後のネコの脳内で有意に増加するか検証する。次にエンドカンナビノイド分解酵素(FAAH)の遺伝子多型を調べる。FAAHは内因性アゴニストの分解酵素で、多型による活性の違いでアゴニストの脳内消失時間に個体差が生じ、ヒトでは幸福度や薬物に対する感受性に関わっていると考えられているので、マタタビ反応するネコと反応しないネコ計30頭のゲノムデータよりネコのFAAHの遺伝子多型を調べ、マタタビ反応の有無やマタタビ反応時間と相関するか検証する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 産業財産権 (1件)
Science Advances
巻: 7 ページ: eabd9135
10.1126/sciadv.abd9135