研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
20H04773
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井貫 晋輔 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (70736272)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 粘膜免疫 / ケミカルツール / 微生物代謝物 / 化学コミュニケーション / 天然有機化合物 |
研究実績の概要 |
本研究は、有機合成化学を基盤とした生物有機化学研究からのアプローチにより、粘膜免疫系において多様な機能を担うmucosa-associated invariant T(MAIT)細胞の機能を制御するMHC-Ib-related protein(MR1)タンパク質の新規リガンドの創製を目的としている。 本年度は、MAIT細胞の活性化剤として知られる微生物代謝物5-OP-RUの構造展開を中心に以下の検討を実施した。 (1)5-OP-RUの構造展開を見据え、部分構造であるポリオール部位の合成経路の確立を行った。グルコースなどから合成した単糖誘導体に対する光酸化還元触媒反応を鍵反応とした新規手法の開発に成功した。反応解析の結果、本反応はアルコキシラジカルの発生を起点としたβ-開裂反応、sp3炭素間の1,5-水素移動反応を経由して進行することが明らかとなった。また、本反応で得られる中間体から様々な誘導体を合成する手法の検討も行った。それらの一環として、特殊アミノ酸であるpolyoxamic acidの全合成を行った。 (2)MAIT細胞を活性化する微生物代謝物5-OP-RUの構造活性相関研究を行った。ポリオール部位の構造展開とドッキングシミュレーションを行い、ポリオール部位の2', 3'位のヒドロキシ基の立体化学が活性発現に重要であることを明らかにした。また、構造活性相関研究の結果、5-OP-RUの母核構造であるウラシル部位は構造変換が許容されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規リガンド創製に向けた微生物代謝物からの構造展開は順調に進んでいる。5-OP-RUの構造活性相関研究を行った結果、今後の化合物デザインの指針となる知見を得ることができた。特にポリオール構造について、活性発現において鍵となる部分構造の特定を行った。また、本構造の誘導化に用いる手法として、単糖誘導体を出発物質とする光酸化還元触媒反応を利用した新規手法を開発した。5-OP-RUの母核構造に関しても、種々の構造を有する化合物を合成して評価した結果、母核変換が許容されることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、前年度と引き続き新規リガンドの取得に向け、微生物代謝物からの構造展開を継続する。 これまでに開発した光酸化還元触媒反応を利用した手法を用いて、種々のポリオール誘導体の合成を行う。直鎖のポリオール構造だけでなく、環状構造への展開なども検討する。また、ヒドロキシ基を他の官能基へと変換する検討も併せて行う。これらの変換が活性に及ぼす影響に加えて、化合物の安定性や物性に及ぼす影響についても精査する。 母核構造の変換に関しては、これまでの構造活性相関の情報を基に様々なヘテロ環構造への展開を検討する。また、MAIT細胞に対して活性を示す他の微生物代謝物の構造情報なども活用して、種々の誘導体の合成を実施する。 また、迅速に化合物を評価する新たなアッセイ系の開発にも取り組み、新規リガンド取得の効率化を目指す。
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