研究実績の概要 |
1. 化学構造のみから薬理作用を予測するモデルを開発するため、グラフ畳込みネットワークによる特徴量抽出法を導入し、ChEMBLに含まれる薬理作用データの予測性能を基に、ネットワーク構造の最適化を行った。127種類の受容体/酵素/チャネルへの親和性を高精度で予測することに成功した。さらに、抗うつ薬の作用点であるセロトニントランスポーターに対する予測IC50/Kiが10 nMを下回る化合物について合成し、セロトニントランスポーター発現細胞でその取り込み阻害作用を調べたところ、そのIC50は予測値に極めて近い6.24 nMであった。さらにこの化合物の抗うつ効果をマウス尾懸垂試験を用いて調べたところ、うつ様症状の指標である無動時間を有意に短縮させた(Sakai et al., Sci Rep. 2021)。 2. ヒトにおける副作用/薬効を予測するため、ヒト副作用ビッグデータであるFAERS中に含まれる低分子医薬品の薬理作用を網羅的に予測した。予測値に基づき、約1000万人の患者の服用薬物の総薬理作用を計算し、その薬理作用値から各副作用の発症有無を予測するモデルを構築した。その結果、127種類の受容体/酵素への作用予測値を用いることで、700種類以上の副作用について80%以上の精度で予測が可能となることが明らかになった。本モデルを拡張することで、さらに数多くの副作用およびその逆反応としての薬効について予測が可能となると期待される。
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