研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
20H04778
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山下 敦子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10321738)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 味覚受容体 |
研究実績の概要 |
試料調製条件を確立している味覚受容体T1r1-T1r3味物質認識領域について、すでに得られていた数um程度の大きさの結晶を用いた、微小結晶構造解析を試みたが、結晶化の再現性が極めて悪く、結晶性の改善も奏功しなかったため、構造決定可能なデータ取得に至らなかった。そこで、結晶性向上をはかり、構造解析試料安定化の効果を期待できるリガンド探索を行った結果、これまで結晶化リガンドとしていたものより数十倍高い親和性を示すアミノ酸を見出した。さらに、ヒトT1r1-T1r3やメダカT1rも含め、これまでに報告されているアミノ酸受容T1rがL型アミノ酸特異性を示すのと異なり、解析対象としているT1r1-T1r3が、L型だけでなく多くのD型アミノ酸も結合する緩いエナンチオ選択性を備えた受容体であることを明らかとした。さらに、精製度向上を目指して同試料の精製条件を検討し、発現分子種のうち、C末端に違いが見られる2種類の分子種が存在することを見出し、それらの分離条件を確立した。 また、T1r細胞外領域に特異的に結合するタンパク質を見出し、同タンパク質が味蕾に発現していること、T1r1-T1r3およびT1r2-T1r3の両受容体に共通して結合を示すこと、結合は生物種を超えて見られることを明らかにした。 さらに、実際の生物の生態と受容体機能との関連性をふまえた化学シグナル感知機構を解析することを目指し、すでにT1r受容体の構造・機能解析系を確立しているメダカについて、T1r1-T1r3およびT1r2-T1r3の両受容体機能が欠失していると期待できるT1r受容体機能欠損系統を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標は、T1r1-T1r3およびT1r2-T1r3両味覚受容体の構造と機能の共通性と多様性を明らかにすることにある。その意味において、構造未解明ながら、試料調製を達成し味物質認識領域の微小結晶を得ていたT1r1-T1r3については、残念ながら当該年度内の構造決定には至らなかったものの、今後結晶性改善が期待できる試料調製条件の改善を行った。さらに、同受容体の基質特異性を明らかにし、すでに構造解析を達成しているメダカT1r2-T1r3受容体とは異なるエナンチオ選択性を示すことを明らかとした。これらはT1r受容体の多様性を示す点で重要な成果である。さらに、T1r1-T1r3およびT1r2-T1r3両受容体に結合を示すタンパク質を新たに見出すなど、課題実施前には想定していなかった成果も得られた。加えて、第1期課題実施時に評価者より助言を受け、モデル実験動物メダカについて、T1r受容体機能欠損系統を樹立し、生態と受容体機能との関連性をふまえた化学シグナル感知機構を確立した。 以上から、計画の多くの項目において順調に進展し、目標の達成に向け研究を進めていることから、本課題はおむね順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
T1r1-T1r3味物質認識領域について、2020年度に確立した精製条件で得られた試料をもとに、結晶化条件探索を行う。また、状況に応じ、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析による構造決定も試みる。また、新たに見出したT1r結合タンパク質についても、生体組織における発現様式や、結合による受容体機能への影響を調べるとともに、T1rとの複合体としての調製条件を確立し、クライオ電子顕微鏡単粒子構造解析またはX線結晶構造解析による構造決定を進める。さらに、T1r機能欠損系統を樹立したメダカを用いて、味覚に関わる行動実験系を確立する。これらの得られた情報と、すでにメダカT1r2-T1r3で得られている構造情報などを統合し、T1r受容体の構造と機能の共通性と多様性をふまえた上で、同受容体の化学シグナル感知機構の解明を目指す。
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