研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
20H04784
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
甲斐 建次 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (40508404)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポリイン / 異種微生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
土壌細菌Collimonas fungivorans Ter331株は、栄養欠乏状態で真菌の菌糸を溶かし資化する。そのため、“fungus-feeding bacterium”(真菌資化性細菌)とも呼ばれている。応募者は本新学術領域の第1期の公募研究で、C. fungivoransが産生する抗真菌性ポリインcollimonin類の単離・構造決定に成功している。また、真菌拮抗性細菌Pseudomonas protegens MAFF212077株からも抗真菌性ポリイン類を発見している。興味深いことに、これらのポリイン類は、貧栄養条件かつ培地にN-acetylglucosamine(GlcNAc)が含まれているときに、高生産される。GlcNAcは真菌細胞壁の構成成分キチンの単糖単位である。すなわち、細胞壁断片を介してポリイン類が産生誘導されるという双方向性の化学コミュニケーションが存在する。 はじめに、collimonin類の生合成の解明を進めた。col遺伝子クラスター中に存在する全ての遺伝子について、単独欠損株を作製し、欠損株が産生するcollimonin類の詳細なプロファイルを解析した。また、必要に応じて二重欠損株も作製・解析した。その結果、生合成経路を推定するのに有用な中間体が数種得られた。単離・構造決定が未達成のものについては、次年度での達成を目指す。P. protegens MAFF212077株が産生するポリインprotegenin類の単離・構造決定を達成した。加えて、生合成遺伝子クラスターの同定、生物活性の評価なども順調にクリアすることができた。GlcNAcによる産生誘導については、現時点で大きな進捗はない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Collimonin類の生合成研究は計画通りに進展している。特に生合成遺伝子クラスター中の全ての遺伝子について欠損株を作製し、欠損株のcollimoninプロファイルを明らかにできつつある点は、今後の進展に大きく寄与すると思われる。さらに、P. protegensから新しいポリインprotegenin類を単離・構造決定し、詳細な生物活性評価を行った。新しい細菌ポリイン類の発見は、異種微生物間におけるポリイン類の生態学的な役割を考えるうえで、重要な知見となる。
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今後の研究の推進方策 |
Collimonin類の生合成機構の解明を進め、このような不安定ながら高生物活性な化合物がどのように作られるのかを明らかにしていきたい。具体的には、欠損株に蓄積している中間体を丁寧に解析しているしかないと考えている。今回発見したprotegenin類は、細菌ポリイン類の起源とも言える化学構造を有し、生合成遺伝子クラスターの構成もそれを支持している。したがって、collimoninなどの他のポリイン生合成遺伝子クラスター中に存在する酵素遺伝子を遺伝子工学的に導入することによって新しいポリインが創製できると期待されるため、その検証も実行していきたい。GlcNAcによる特異的なポリイン類の産生誘導機構の解明も進めていく。
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