公募研究
植物は害虫が分泌する唾液成分を認識することで、特異的な防御応答を誘導することができる。害虫の唾液内に含まれるエリシターは植物の防御応答を誘導する分子であり、寄主植物のシグナル伝達ネットワークにおける特異的作用などが示唆されている。本研究ではこれらの分子機構の解明を目指し、本年度は以下の研究項目において成果を挙げた。1)ハスモンヨトウの幼虫の吐き戻し液(唾液など)に含まれるエリシターの認識に関わるダイズとシロイヌナズナのタンパク質“HAK”の同定に成功した。吐き戻し液中の唾液由来糖性エリシターの応答に関わるシロイヌナズナの受容システムにおいて、HAKはPBL27およびCRK2といった制御因子と共にはたらくことで、植物ホルモンである“エチレン”を介したシグナル伝達系を活性化し、防御活性が高まることがわかった。2)これまで、吸汁性害虫であるナミハダニの唾液腺で発現するタンパク質であるテトラニン(Tet1、Tet2)は、インゲンマメ葉の防御応答を誘導するエリシター活性を有することが明らかにされている。本研究ではさらに、約90種の体外分泌タンパク質から、ハダニ致死を誘発するTet3、Tet4を同定した。これらタンパク質を機械傷と共にインゲンマメ葉に処理した結果、ジャスモン酸とサリチル酸の生合成ならびに防御応答関連遺伝子の発現が亢進された。Tet3は、初期防御応答である活性酸素種の生成も誘導した。さらに、Tet3、Tet4は共に、ハダニの捕食性天敵であるチリカブリダニを誘引する匂い成分の放出を誘導したことから、これらの新規テトラニンは植物の直接防御と間接防御の両方を誘導する新規エリシターであることが示された。
2: おおむね順調に進展している
エリシターおよびエリシター応答に関わる植物分子の同定は順調に進んでいる。
シロイヌナズナのハスモンヨトウの唾液由来糖性エリシター応答において役割を担うHAK1、PBL27、CRK2と相互作用するシロイヌナズナの受容体キナーゼ(RLK)をAlphaScreenを用いてスクリーニングする。それらのRLKの過剰発現株およびT-DNA挿入変異株を用いた植物の防御形質に関わる生化学実験(防御遺伝子の発現、防御物質などの誘導、虫害抵抗性などの評価)を実施することで、ハスモンヨトウのエリシターに応答したシロイヌナズナのシグナル伝達ネットワークを紐解く。さらに、ナミハダニのエリシターであるTet1/2/3/4の寄主特異的な防御応答誘導機構を明らかにするために、インゲンマメ以外の植物におけるエリシター活性を評価する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (8件) 備考 (1件)
Plant Molecular Biology
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https://www.rs.tus.ac.jp/garimura/index.html