研究領域 | 化学コミュニケーションのフロンティア |
研究課題/領域番号 |
20H04790
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清家 泰介 大阪大学, 情報科学研究科, 助教 (80760842)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / フェロモン / Gタンパク質共役型受容体 / Cre-loxPシステム / 次世代シーケンサー |
研究実績の概要 |
多くの動物や微生物では、フェロモンを利用して同種の異性を惹きつけ交配する。フェロモンの特異性は通常厳密なため、フェロモンとその受容体の組み合わせが変わると、異性の認識ができなくなり元の集団から隔離されてしまう。こうしたリスクがあるにもかかわらず、自然界ではフェロモンは非常に多様化している。フェロモンの遺伝的な変化は新しい種が誕生するための原動力になっていると考えられているが、フェロモンの多様性が生まれる仕組みについてはよく分かっていない。 そこで本研究では、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeを使って「フェロモン (鍵)とその受容体 (鍵穴)」の認識特異性が生まれる仕組みを分子的に理解し、異性細胞間でのフェロモン認識の特異性を検証するとともに、フェロモンの特異性が酵母の交配に果たす役割を調べることにより、生物学的意義を探ることを目的とする。 本年度はまず、分裂酵母S. pombeのフェロモン受容体の2つ (Map3, Mam2)をプラスミドにクローニングし、それぞれの遺伝子に連結する形で15 bpからなるDNAバーコードと、34 bpからなるloxP/lox2272配列を挿入した。これらのプラスミドを発現する酵母を交配させ二倍体にさせた後、二倍体細胞内で組換え酵素Creを発現させることにより、別々のプラスミドのDNAバーコードを同じプラスミドに融合させる事ができることを確かめた。さらに受容体遺伝子にランダムに変異を導入し、変異型受容体遺伝子ライブラリーを構築した。これらの細胞集団を交配誘導培地で培養し、交配した細胞のみを新しい培地に植え継ぐ実験を行い、残った細胞集団の比率を次世代シーケンサーMiSeqとminIONで解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の当初の予定では、M型フェロモンとその受容体遺伝子、およびP型フェロモンとその受容体遺伝子の合計4遺伝子をそれぞれプラスミドに導入してランダム化する予定であった。しかし、P型フェロモン遺伝子は1コピーでは交配を誘導させることができないことが判明し、P型フェロモンのプラスミドの設計に難航している。そのため、本年度はまず、受容体だけをランダム化させたプラスミドライブラリーを構築した。変異導入キット (TaKaRa; Diversify Mutagenesis Kit)を用いて、1遺伝子に数個の変異導入を行い、また15塩基からなるDNAバーコードで区別できるようにし、バーコードと変異遺伝子の対応付けを行った。プラスミドライブラリーは高品質なものが作製できていることをサンガーシーケンスで確認した。 コロナウイルスによる研究の制限、及び自身の異動が重なり思うように実験ができなかったが、上記で作製したライブラリーを酵母細胞に導入して、変異細胞集団を混合して交配させる実験を1回行うことができた。複数の継代培養実験を行い、得られた細胞集団の比率を求めるために、次世代シーケンサーMiSeqとminIONの解析を行った。詳しいデータは現在解析中であるが、目標であった「DNAバーコードに対応する遺伝子を調べることで、フェロモンと受容体の組み合わせを網羅的に決定すること」がほぼできつつある。そのため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、得られたシークエンスデータを解析し「どのようなフェロモンと受容体の組み合わせが存在するか」を詳細に調べる。そして、各リード数の定量値を分布化し「組み合わせの多様度」といった視点から、M型とP型のそれぞれの場合で、「鍵と鍵穴」の特異性が異なるかを調べる予定である。可能であれば、受容体ごとの特異性を検証し、M型フェロモン受容体の特異性が低下した変異体、およびP型フェロモン受容体の特異性が上昇した変異体をいくつか選抜する。そして「非対称性の崩れた」細胞を10種類ずつ作製する。これらの変異型細胞と野生型細胞を同じ環境下で培養し、交配した細胞だけを植え継ぐことにより、一定期間継代培養し、酵母の異性間の化学コミュニケーションの非対称性が交配に及ぼす影響を実験的に調べる。
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