研究領域 | 分子合成オンデマンドを実現するハイブリッド触媒系の創製 |
研究課題/領域番号 |
20H04795
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
久保田 浩司 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任助教 (60824828)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | メカノケミストリー / ボールミル / 圧電材料 / レドックス反応 / フッ素 |
研究実績の概要 |
トリフルオロメチルラジカルは、求電子的トリフルオロメチル化試薬の一電子還元によって容易に発生させることができ、電子豊富な芳香族化合物のC-Hトリフルオロメチル化の反応活性種として広く利用されている。この反応のトリガーとなる一電子還元にはフォトレドックス触媒を用いる方法が確立されている。そこで本研究では、我々が独自に開発したBaTiO3とボールミルを用いたメカノレドックス反応によっても、同様に求電子的トリフルオロメチル化試薬を活性化できないかと考えた。トリフルオロメチル基は医薬品や農薬の開発において重要な官能基である。したがって溶媒を用いずに固体のままトリフルオロメチル基を導入する新反応の開発は、よりクリーンに医薬化合物を製造する上で価値があるものと考えた。 種々検討の結果、代表的な求電子的トリフルオロメチル化試薬である梅本試薬35)をBaTiO3とともにボールミルで反応させると、一電子還元が進行しトリフルオロメチルラジカルが発生することを見出した (K. Kubota, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 22570)。インドールやピロール、アルコキシ基置換アレーン類をボールミル中に共存させておくと、対応するC-Hトリフルオロメチル化体が良好な収率で得られた。この反応では、トリフルオロメチルラジカルの芳香族化合物への付加反応が進行後、発生したアルキルラジカルがBaTiO3によって一電子酸化されることでカチオン種となり、最後に脱プロトン化が進行することで対応する生成物を与えたものと想定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的であるハイブリッド型メカノレドックス触媒系の構築に向けて、その基盤となる反応開発に初年度で (K. Kubota, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 22570)成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
Sanfordらは、フォトレドックス触媒と銅触媒の協働作用により、それぞれ単一の触媒では困難なアリールボロン酸のトリフルオロメチル化反応を達成している(Sanford, M. S. et al. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 9034.)。今年度の研究では、このSanfordらの研究を指針として、メカノレドックス触媒への置き換えを検討する。すなわち、ボールミルと圧電材料で発生するピエゾ電気を利用して、銅(I)種の一電子酸化、およびトリフルオロメチルアイオダイドの一電子還元を進行させることで、機械的インパクトを駆動力とするトリフルオロメチル化反応を検討する。このメカノレドックス反応は無溶媒、空気下かつ室温で実施可能であることから、フォトレドックス触媒の系に対して、実験操作の簡便化、加熱操作不要、難溶性化合物である色素や多環芳香族化合物への適用可能という点で優位な特徴がある。また、メカノレドックス触媒を利用することで、より低温で反応を実施できることから、加水分解が進行しやすい不安定なボロン酸を適用できる可能性がある。このように、溶液系では合成困難なトリフルオロメチル化合物の分子合成オンデマンドの実現を目指す。
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