光学活性なアミン触媒とカルボニル化合物から生じるエナミン中間体を求核剤として利用する反応では、さまざまな求電子剤が用いられてきたが、過酸化ベンゾイル(BPO)を求電子剤として用いると、カルボニル化合物のα位がベンゾイロキシ化された生成物が得られる。このとき、当研究室の開発した2-トリチルピロリジン触媒を用いると高いエナンチオ選択性で生成物が得られる。2-トリチルピロリジンは合成時の光学分割が煩雑という問題があったが、その後の検討の結果、trans-ヒドロキシプロリンから簡便に得られる触媒を用いると、より高い収率で生成物が得られることを見出している。この不斉ベンゾイロキシ化反応で得られるα位に酸素官能基をもった光学活性なアルデヒドを、スレオニン由来のアミン触媒によるジヒドロキシアセトン誘導体との不斉アルドール反応の求電子剤として利用したところ、三連続した不斉点をもったシン体のアルドール生成物が得られた。α位がベンゾイロキシ化されたラセミ体のアルデヒドを二段階目のアルドール反応の求電子剤として用いると、低収率ながら目的の立体異性体が高い立体選択性で得られることが判明した。収率が低いのはラセミ体のうち一方しか反応しないためであることから、α位がベンゾイロキシ化されたアルデヒドの代わりに、ラセミ化が進行しやすいα位が臭素化されたアルデヒドを用いた。その結果、一方のエナンチオマーが優先的に反応するものの、ラセミ化によってもう一方のエナンチオマーから供給が続くため、50%を超える収率で目的生成物が高立体選択的に得られることが明らかとなった。これは動的速度論的光学分割が起こっていることを示す結果であり、2段階の反応で2種類の光学活性なアミン触媒を用いなくても、1段階目の反応はラセミ体のアミン触媒を利用できるため、計画していた連続反応と比較してより実用性の高い連続反応を実現できた。
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