本研究は平成30―令和元年度の新学術「代謝統合オミクス」で培った、腫瘍微小環境におけるトランスオミクス解析をさらに発展させ、「代謝アダプテーション」の視点から、がん悪性化機構の解明と治療法の開発を目指す。本研究で申請者は、①トランスクリプトーム、ゲノム、エピゲノム、メタボロームに加えリン酸化プロテオームのトランスオミクス解析と数理ネットワークモデルを構築し、②、腫瘍微小環境における多重の代謝適応とがん代謝物によるフィードバックシステムを分子腫瘍学的な手法で実証し、③臨床検体に応用することで、がん悪性化の本質となる「代謝アダプテーション機構」の包括的理解と攻略を目指して研究を行った。 本年度は、(研究項目1)がん微小環境における多重の「代謝アダプテーション」の解明、(研究項目2)がん代謝物による「代謝適応フィードバックシステム」の解明の2項目について研究を行い、(研究項目3)臨床検体への応用を試みた。 (研究項目 1)のがん微小環境における多重の「代謝アダプテーション」の解明に関しては、これまで申請者らが行ってきた、腫瘍微小環境における低酸素・低栄養・低pHの研究を発展させ、「過酷な環境」の重なりによって引き起こされるがん細胞の代謝適応メカニズムを解明を目指し研究を行い、これまで低酸素応答反応として知られてきた血管新生関連遺伝子発現が、低栄養と低pHの組み合わせで、最も促進することを発見した。また、(研究項目2)がん微小環境における「代謝適応フィードバックシステム」の解明に関しては、低栄養や低pHで蓄積する代謝物の生理活性代謝物の解析を進め、さらに、(研究項目3)臨床検体への応用を試みた。
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