公募研究
生活習慣病の発症に脂肪細胞の機能破綻が原因で発症するメカニズムが注目され、脂肪細胞の分化と機能制御メカニズムの解明は重要な課題となってきている。しかし、変化する環境にどのように前駆細胞は運命を決定し、成熟脂肪細胞に分化し環境に適応していくのか、代謝細胞運命(分化・増殖・遊走)決定のメカニズムは明らかにされていない。本研究では環境からの栄養と代謝からのシグナルがどのようにして遺伝子発現そして、細胞の機能を変化させるのか否か解析し、そしてその詳細な機構を明らかにする。特に三大栄養素の一つとして中心的役割を担うグルコースが単に栄養分としてのみならず、代謝のシグナル分子としてエピゲノム修飾を変えて細胞の質の変化を誘導するか否かを解析する。さらに、栄養がどのように標的遺伝子の特異性を決めているのか、クロマチン免疫沈降の後の次世代シーケンサーを組み合わせたChIP-Seq解析を行う。このために、エピゲノム修飾によるクロマチン構造を変化させる分子を特定し、代謝変化による脂肪細胞の分化制御機構の解明を目的とする。最終的には、脂肪細胞は細胞外の栄養を感知し、それをエピゲノムに伝えることで、糖を取り込みやすい、脂肪を蓄積しやすい特徴を獲得するという仮説を証明する。このために、(1)細胞の解糖速度と脂肪蓄積の解析、(2) 解糖系の鍵となる遺伝子の発現解析、(3)補酵素 α-KG レベル変動をメタボローム解析、(4)ヒストンメチル化の解析、(5) グルコース由来の代謝物を合成する酵素のノックダウンによる代謝物検証、(6)責任となる「グルコース(栄養)感知」ヒストン脱メチル化酵素の同定を行う。
2: おおむね順調に進展している
以下の進捗をあげておりおおむね順調に進んでいる。(1)細胞の解糖速度と脂肪蓄積:3T3-L1前駆脂肪細胞を分化誘導し、脂肪蓄積(オイルレッドO脂肪染色)や解糖系の速度の解析、(2)解糖系の鍵となる遺伝子(糖取り込みGlut4や解糖系遺伝子群 Hk2など)の発現解析、(3)補酵素 α-KG レベル変動をメタボロームから解析、(4)メチル化抗体を用いたChIPによりヒストンメチル化の解析、(2) の解糖系の鍵となる遺伝子群のヒストンメチル化変化を解析した。さらに、(6)責任となる「グルコース(栄養)感知」ヒストン脱メチル化酵素候補を特定した。
グルコースが単に中性脂肪の栄養分としての前駆物質ではなく、ヒストンメチル化変化を介して細胞の質の変化(脂肪細胞の脂肪蓄積しやすさ)を規定していることを示す。具体的には、低(高)グルコース下で以下を解析する。(5)低グルコースの代わりに、α-KGの合成酵素イソクエン酸デヒドロゲナーゼをノックダウンし、α-KGが低下することで、低グルコース負荷同様に解糖系遺伝子発現が低下するか、同様に低酸素や薬理学的(DMOG)でJMJD1Aを阻害するか、を解析する。さらに、(6)責任となる「グルコース(栄養)感知」ヒストン脱メチル化酵素の特定。α-KGが補酵素とするH3K9me2の脱メチル化酵素を系統的にRNA干渉法でノックダウンし、グルコース濃度変化によって解糖系遺伝子群の発現を制御するヒストン脱メチル化酵素候補を特定する。さらにこれを検証するために、(5)低グルコースの代わりに、α-KGの合成酵素イソクエン酸デヒドロゲナーゼ (IDH3 β) をノックダウンし、α-KGが低下することで、低グルコース負荷同様に解糖系遺伝子発現が低下するか、同様に低酸素や薬理学的(DMOG)でJMJD1Aを阻害するか、を解析する。(7) 低グルコース時に受けるJMJD1Aのリン酸化修飾とタンパク質複合体をJMJD1Aの免疫沈降と質量分析から同定する。高・低グルコース時にJMJD1Aのタンパク質の遺伝子局在など特異性を決めうる転写因子などとのタンパク質複合体を探索する(低グルコースで機能するAMPキナーゼなど)。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Elife
巻: 10 ページ: e66865
10.7554/eLife.66865
Genes to Cells
巻: in press ページ: in press
http://www.mm.rcast.u-tokyo.ac.jp/publications/pubs.html