これまでに細胞内の乳酸およびピルビン酸動態を可視化解析するため、蛍光タンパク質と乳酸およびピルビン酸結合タンパク質を融合させた蛍光タンパク質センサーが、開発されてきた。蛍光タンパク質センサーの構造には、フォルスター共鳴エネルギー移動型と単色輝度変化型の2種類がある。前者は異なる2色の蛍光タンパク質を用いて標的分子の動態を可視化するため、他の細胞内シグナル伝達分子の動態を同時観察することが困難である。一方後者は、1色の蛍光タンパク質のみを用いるため、異なる細胞内分子との同時観察が行いやすい利点がある。そこで今回、緑色蛍光タンパク質を基盤とした単色輝度変化型乳酸センサーおよびピルビン酸センサーの開発に成功した。緑色乳酸センサーは、乳酸存在下で蛍光輝度が約5.2倍に、緑色ピルビン酸センサーは、ピルビン酸存在下で蛍光輝度が約3.3倍に上昇した。 緑色乳酸センサーにマウスの血漿を添加し、その蛍光輝度の変化率から乳酸濃度を算出することで、血中乳酸測定器と同様に血漿中の乳酸を検出できた。さらに、脳を構成するグリア細胞の一種であるアストロサイトから放出されるD-セリンを、D-セリンがD-セリンデヒドラターゼという酵素によって分解されてピルビン酸になる性質を利用して、緑色ピルビン酸センサーによって検出できることも分かった。 開発した緑色ピルビン酸センサーと緑色乳酸センサーをニューロンおよびアストロサイトに効率よく発現させる遺伝子導入法を探索した。リポフェクション、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルスといった手法を比較検討した。その結果、アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子導入法が一番効率よく遺伝子導入できることが分かった。
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