環境変化に応答した細胞レベルの代謝アダプテーションでは、遺伝子の発現制御を介した代謝酵素の発現量調節が重要な役割を果たす。申請者はこれまでに、低酸素環境に応答した遺伝子発現制御ではmRNA分解による遺伝子発現量の制御が重要であることを見いだしている。mRNA分解機序を理解するには、mRNA分解を制御するRNA結合タンパク質(RBP)を特定することが必須である。しかし、これまでmRNAとRBPの相互作用を網羅的に同定することは困難であり、転写後の遺伝子発現制御に着目した代謝アダプテーション機序解明のボトルネックとなっている。本研究では、低酸素適応時の代謝アダプテーションをコントロールする転写後遺伝子発現制御の解明を目的として、転写後制御を担うRNA結合タンパク質の探索をおこなった。 ポリアデニル尾部を有するRNA(メッセンジャーRNA)をオリゴdAで回収し、同時回収されるタンパク質を質量分析にて網羅的に同定する技術を開発した。常酸素あるいは1%酸素(低酸素)条件で培養したHeLa細胞の細胞質抽出液からメッセンジャーRNAを回収し、質量分析にてRNA結合タンパク質を同定した。常酸素条件特異的、慢性的低酸素条件特異的、両条件で、それぞれ、93種類、2種類、256種類のRNA結合タンパク質を同定した。この結果から、慢性的低酸素条件では、メッセンジャーRNAから多くのRNA結合タンパク質が遊離していることがわかった。一方、低酸素特異的にメッセンジャーRNAに結合するタンパク質は限られていることが判明した。 一方、申請者ら以前に開発したDirec-seq法を用いて、常酸素および慢性的低酸素状態でのRNA合成と分解を網羅的に測定することで、解糖系タンパク質をコードするメッセンジャーRNAが特異的に分解抑制されていることを発見した。
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