本研究では、低酸素ストレスに応答した転写後遺伝子発現制御(特にRNA分解制御)に着目した低酸素応答の代謝アダプテーションの機序解明を目指した。まず、長期低酸素条件下でヒト培養細胞を培養し、遺伝子発現が持続的に変動することを確認した。次に、RNA-seq法とSLAM-seq法によって長期低酸素したヒト培養細胞におけるRNA合成と分解を同時測定した。その結果、約200種類の遺伝子について、それらのRNA分解が抑制され、RNA発現量が増加していることを示す結果を得た。RNA分解が抑制され、かつ発現量が増加した遺伝子群は、代謝関連遺伝子が多かった。この結果は、低酸素に応答したヒト細胞の環境適応的な代謝変化(代謝アダプテーション)がRNA安定性によって制御されていることを示す結果である。 つぎに、これらのRNAの安定性を担う機構を明らかにするべく、低酸素特異的に上述のmRNAに結合するRNA結合タンパク質をスクリーニングした。方法はeRIC法を採用した。その結果、複数の候補分子を得た。現在、これらのRNA結合タンパク質が代謝関連mRNAの安定性を制御する詳細な分子機構を調べている。
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