研究実績の概要 |
本研究課題では、線虫のL1期幼虫が様々な種類の食餌の摂食により代謝酵素の遺伝子発現を柔軟に変動させて体内代謝環境を整え、幼虫期発生プログラムを開始する運命決定に至る過程を代謝アダプテーションとして捉え、線虫の遺伝子発現応答を明らかにすることで、幼虫期発生プログラムの開始に必須の遺伝子発現の時期と制御経路を特定することを目的とした。 孵化後の幼虫の新生mRNAの全長RNAシーケンシング解析を行い、S-アデノシル-L-メチオニン合成酵素をコードするsams-3, sams-4, sams-5遺伝子の選択的スプライシングパターンが食餌で変化することによりSAM合成酵素量がフィードバック制御機構されること見出した。そして、その分子機構の解明に取り組み、競合的3’スプライス部位のAG配列中のアデニンの6位のアミノ基がMETT-10によってメチル化されることを明らかにした。3’スプライス部位そのものがm6A修飾を受けることで選択的スプライシングが制御されることを明らかにしたのはすべての生物を通じて世界で初めてであり、この成果をEMBO Journal誌に発表した(2021年6月)。さらに、METT-10が標的RNAを認識する構造基盤をX線結晶構造解析により明らかにした(2023年2月)。 孵化後の食餌の違いにより誘導される遺伝子発現の違いを鋭敏に解析するために、大腸菌の生菌、大腸菌の溶菌上清、および大腸菌の溶菌沈殿物を食餌として投与して3時間の間に転写された新生RNAを代謝標識してライブラリ調製を行いRNA-seq解析を行った。これまでに遺伝子発現の比較を行っており、それぞれの条件で特徴的な遺伝子群の発現誘導が見られた。今後は、これらの遺伝子発現誘導に新規タンパク質合成が必要かどうか解析し、実験的な検証を行って、孵化後の遺伝子発現およびmRNAプロセシングによる発生プログラム制御機構の解明を目指す。
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