昨年度までに、メタボロームデータを用いて代謝アダプテーションを実現する鍵となる代謝産物を同定する機械学習の手法を確立することができた。そこで今年度は、ゲノムスケールの代謝モデルを構築するための新たな方法論の開発に取り組んだほか、ウェットな実験を他の植物種に展開して研究を発展させた。 乾燥ストレスに晒された植物では代謝アダプテーションが起こり、乾燥ストレス耐性を付与する代謝産物が蓄積する。そのような代謝産物の一つに、セリン由来の化合物がある。そこで、セリン生合成に関わる酵素遺伝子に着目し、基部陸上植物のモデルであるゼニゴケ(Marchantia polymorpha)を用いた研究を行った。セリン生合成リン酸化経路の鍵酵素である3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(PGDH)をコードする遺伝子MpPGDHの発現をゲノム編集によって抑制した変異株を作出した。光条件やCO2濃度などを変化させたいくつかの異なる栽培条件において、成長・発生に関する表現型を肉眼および電子顕微鏡レベルで明らかにし、さらにメタボロームとリピドームのトランスオミクス解析を行って、当該酵素遺伝子の生理機能を明らかにした。成果をプレプリント誌にて公開し、査読有りの雑誌にも投稿した(Wang et al. under revision)。また、同変異株のトランスクリプトーム解析を現在実施中である。さらにゲノムスケールの代謝モデルについての論文を執筆中である。
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