研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
20H04854
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
阿部 玄武 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20550073)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遊離軟条 / shh / 鰭条 / 種内多型 / 形態多様性 |
研究実績の概要 |
本研究は、種内ゆらぎの元となる発生メカニズムを特定し、そのメカニズムがある動物種を特徴づける特殊な形態の進化に必須である可能性を検証することを目的とする。種内ゆらぎのモデルとして魚類胸ビレの鰭条を取り扱い、環境に応答し胸ヒレ鰭条の本数ゆらぎと区画ゆらぎを生じる発生メカニズムを特定する。この発生メカニズムとしてshh経路とhox発現制御に注目する。さらに、種を特徴づける特殊な形態として遊離軟条を扱う。Shh経路やhox遺伝子による発生メカニズムが、ホウボウ科魚種の遊離軟条の形態進化に関わるのかを明らかにする。 本年度は、まずshh経路がゼブラフィッシュ鰭条形成に関わることを明らかにする目的で、shh経路に関わるトランスジェニックフィッシュ(TG)を作成した。shh応答TGを海外のバイオリソースから取得する共に、CRISPR/Cas9システムによるKnock-inを行いshhレポーターTGを作製した。ゼブラフィッシュは真骨魚特異的ゲノム重複による二つのshh(shha, b)を持っている。それら二つのレポーターTGを作成し、発現を比較したところ、shhb-TGが一意的に鰭条形成時にヒレ後方で発現が見られることが分かった。 さらに、真骨魚全体のヒレ骨格パターンの進化傾向を調べるため、真骨魚全体にわたるさまざまな系統の魚種の胸ヒレ骨格の形態パターンを解析した。その結果、様々な形態特徴がある時期を境に現れ、それがshhやhox遺伝子のゲノム構造の変遷と同期している可能性が得られた。 また、ホウボウ科魚種の胸ヒレ/遊離軟条発生を解析するため、カナガシラ胚の取得を目指した。結果、人工授精により、胚が得られ仔魚期の初期までのサンプルを得られ、骨染色による形態の観察を行っている。また、現在各組織のRNAやゲノムのサンプリングを行い、遺伝カナガシラの遺伝情報の解析基盤を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼブラフィッシュを用いた種内の鰭条本数多型を解析するためのさまざまなトランスジェニックフィッシュを作製、取得し、解析する準備が整った。また、それらを使った、摂動実験を行うことができた。また、真骨魚全体の胸ヒレ形態の進化傾向を調べるため、浅虫水族館のご協力を得て、多くのサンプルを入手・解析することができた。 さらに、カナガシラ胚の人工授精にも成功し、それらの胚・仔魚の形態形成を実験できた。また、新型コロナ状況下で人の移動が抑制され、危ぶまれていたカナガシラ生体サンプルの入手を、浅虫水族館のご助力の元、達成することができ、RNAやゲノムサンプルの抽出を無事行うことができた。 。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、以下の内容について行う。 1. 鰭条形成におけるshhシグナル経路の解析を行う。具体的には胸ヒレ骨格(軟骨、硬骨)、shh経路応答およびshh発現細胞をトレースするトランスジェニック系統(TG)を用いて、shh経路や環境要因の摂動実験を行い、ゆらぎのもととなる発生現象を特定するとともに、環境要因とshh経路の関係を明らかにする。 2.鰭条-DR接続様式の進化傾向の解析の解析を行う。具体的には、条鰭類全体での胸ヒレ骨格のサンプリング・骨格パターン解析から明らかになった鰭条/DR接続の条鰭類における進化傾向とHox遺伝子やshh遺伝子との関係を、ゼブラフィッシュとメダカでゲノム編集技術を用いた遺伝子とその制御領域の欠損・導入の解析を行い、機能的な因果関係を証明する。 3.カナガシラの胸ヒレ骨格の区画化の解析を行う。具体的には、カナガシラの卵を取得し、胸ヒレ形成過程とshh経路、区画化遺伝子の発現を記載する。また、shh経路の摂動実験を行い、鰭条ゆらぎに関わる発生機構と遊離軟条進化の関係を議論する。
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