研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
20H04855
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
守野 孔明 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20763733)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 発生システム浮動 / 発生拘束 / 系統特異的転写因子 / 軟体動物 / 初期発生 / 遺伝子重複 |
研究実績の概要 |
本研究では、種内に見られる発現のばらつきの傾向とより長期的な進化の結果であるDSDの傾向に相関があるのか、および発生システムの冗長性が発現のばらつきおよびDSDを許容し、方向性や制約を作り出すことに関与しているのかを明らかにすることを目的とし、主に軟体動物腹足類3種を主な対象として以下の実験を行った。 <1> 1個体ずつのトランスクリプトームを軸とした、転写因子発現レベルのばらつきの検証 カサガイ類クサイロアオガイを用いて16・32細胞期を用いて安定したフローを作ることを目指し、これまでに発生を同調させた上でRNAを安定して抽出する方法を確立した。1ペアの父母から16・32細胞期それぞれ5個体よりRNA抽出、ライブラリー作成、シーケンスを行い、現在、特に卵割期に発現する転写因子に着目して、発現のばらつきを解析中である。 <2> 割球特異化システムの解析と冗長性の検証: まず、卵割期に割球系列特異的に発現する転写因子群のうち、新規転写因子群について過剰発現を行い、多くが実際に割球運命特異化の機能があることを明らかにした。並行して、割球特異的な発現を示す転写因子のKD実験を行なった。発現する転写因子数が少ない2q系列で発現する転写因子のKD胚では、特異的な表現型が観察された。一方で、大割球系列で発現する転写因子のKDでは、特異的な表現型が観察できていない。これが冗長性によるものか、KDの不完全性によるものかは慎重に検討していく。 <3>SPILE遺伝子群の進化: 新規転写因子群の中でSPILE遺伝子群に着目し、軟体動物を中心にレパートリーと機能の変遷を解析した。結果、軟体動物のSPILE遺伝子群は4つに大別され、そのうち1つの遺伝子群が二枚貝類では重複し、重複したSPILEの一部が二枚貝の系統で獲得された割球特異化の早期化に関わるであろうことが明らかになった。このことは、初期発生期に発現する転写因子群の重複が、初期発生進化の原動力となることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
緊急事態宣言などに伴うサンプリングの困難により、胚発生実験ができない時期が長く、その影響でトランスクリプトーム解析、機能解析実験には当初の計画より遅れがある。一方で、新規遺伝子群の進化史の解析については、進展があった。この両者を考慮し、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 1個体ごとのトランスクリプトームを軸とした、転写因子発現レベルの揺らぎの検証: 2021年度には、前年度までにクサイロアオガイで確立した実験フローを用いて、クサイロアオガイのペア数を増やして解析すると共に、他の腹足類においても同様の1個体ずつのトランスクリプトーム解析を行う。これらから、各転写因子の発現の揺らぎやすさを測定し、 そこにどのような傾向があるかを明らかにする。具体的には、遺伝子の特徴 (ex:進化的に新しい/古い、重複の有無、DNA結合ドメインの種類) 、発生ステージ (16/32細胞期)、細胞系譜 (ex: 予定外胚葉/中胚葉/内胚葉)といった情報を抽出する。それらを腹足類3種で比較し、揺らぎの傾向の共通性/相違点について明らかにする。また、揺らぎやすい遺伝子/発生ステージ/細胞系譜は、腹足類の進化過程でも同様にDSDが起きやすいかについて検証する。 (2) 割球特異化システムの冗長性の実験的検証: 2021年度には、1q1および1q2系列で発現する転写因子群について機能阻害を進めていくと共に、前年度に取り組んだ遺伝子のうち、表現型の出なかった遺伝子に関しては、二重KDなどにより冗長性の存在を検証していく。 以上の知見を統合し、(1) 発現揺らぎといった一世代で観察できる変動と、より長期的なスケールで起きるDSDの方向性に相関があるのか、および (2) 発生システムの冗長性が発現揺らぎ、およびDSDを許容し、観察される傾向を作り出すことに関与しているか、ということを解明する。
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