研究領域 | 進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~ |
研究課題/領域番号 |
20H04857
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高橋 佑磨 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (00707622)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 進化 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
生物の表現型変異は、遺伝的変異と非遺伝的変異に大別できる。遺伝的変異は進化の源泉であり、その量やパターンが小進化の方向性や速度を左右する。一方で、非遺伝的変異は、環境依存的な「表現型可塑性」と発生過程でランダムに生じる「発生ノイズ」に大別することができる。変異自体は次世代へとは継承されないものの、これらもまた進化の方向性や速度に影響する可能性が指摘されている。したがって、非遺伝的変異に対する理解を深めることは、生物進化を理解する上で重要な意味をもつといえる。これまで、多くの先行研究によって可塑性の能力が定量されてきた。ただし、それぞれの研究では、注目される環境刺激が単一であることがほとんどであり、個体レベルの可塑性の能力が充分に評価できていないかもしれない。そこで本研究では、オナジショウジョウバエ(Drosophila simulans)の野外集団に着目し、表現型可塑性の能力と発生ノイズの生じやすさの個体間の遺伝的変異を定量するとともに、これらの間の関係を明瞭にすることを目的とした。まず、同一集団由来の単雌系統を複数作成し、一定環境において数世代飼育し、環境効果を排除した。その後、複数の環境要因を変動させる摂動実験によって翅形態における表現型可塑性の程度を単雌系統ごとに評価した。このとき、特定の環境に対して高い可塑性を示す系統は、いずれの種類の環境刺激に対しても、大きな表現型変異を示した。このことは、あらゆる環境変化に対する応答能力、すなわち、可塑性能に集団内の遺伝的変異があることを示唆している。最後に、同一環境下で飼育した同一単雌系統由来の個体の左右の翅形態の差から発生ノイズの程度を測定したところ、発生ノイズにも遺伝的な変異が存在することがわかった。ただし、発生ノイズの程度と表現型可塑性の程度の間に相関関係はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新型コロナウイルスの影響で、サンプリング(宿泊を伴う)が困難になり、当初予定よりもサンプリング頻度が少なくなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、形質空間内で形質変異の方向性を定量するとともに、それらを階層間で比較する実験に重点をおく。サンプリングについても近隣の地域を中心に行う。
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