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2020 年度 実績報告書

ヒト固有NOTCH2NL遺伝子による脳発達の揺らぎと脳進化方向性の研究

公募研究

研究領域進化の制約と方向性 ~微生物から多細胞生物までを貫く表現型進化原理の解明~
研究課題/領域番号 20H04860
研究機関東京大学

研究代表者

鈴木 郁夫  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (30600548)

研究期間 (年度) 2020-11-19 – 2022-03-31
キーワードNOTCH2NL
研究実績の概要

ヒトは類人猿の中でも特別に大きな脳を獲得し、その神経基盤により生み出される高度な認知機能を活用することで繁栄した。ヒトがチンパンジーと分岐して以降、脳発達過程の神経幹細胞ダイナミクスが変更され、より多くのニューロンが生み出されるようになった。ヒト固有遺伝子NOTCH2NLは、ヒトだけが獲得した、ニューロンの数を増やす効果を持つ遺伝子であるが、興味深いことに現代人ゲノム中では平均して4コピーに重複していて、コピー数や配列に個人差がある。本研究ではヒト固有NOTCH2NL遺伝子の個人間でのゆらぎが、脳発達や生後の神経機能に影響を与える可能性とそのメカニズムを検証する。
昨年度は以下の研究に取り組んだ。
(1)NOTCH2NL遺伝子のパラログの多様性と、個々のパラログ遺伝子座におけるアリル多様性やスプライシング多型の全容がわかってきた。従来、重複遺伝子はパラログ間の配列類似度が高すぎるために、ショートリードシーケンサーを用いた解析では、完全にパラログを識別することが難しかったが、今回、ロングリードシーケンサーPacBioを用いたトランスクリプトーム解析により、ヒト神経幹細胞中で転写されている全てのNOTCH2NLトランスクリプトを同定することができた。
(2)特に発現量が多い主要なものについて、cDNAクローニングを行い、分子機能についての検証を進めた。少数の主要なアリル多型については、アリル間に明確な生化学的な機能の差異があることを見出しており、その脳発達に与える影響を検証している。
(3)これまでの研究によりNOTCH2NLの神経幹細胞における機能はわかってきたが、分化後のニューロンにおける機能は未解明だったため、マウス大脳皮質ニューロンへの強制発現実験を行い、ニューロンの成熟についての表現形解析を行なった。NOTCH2NLのアリルにより表現形の違いが検出された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ロングリードシーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析が順調に推移しており、NOTCH2NL遺伝子の多様性の全体像をほぼ掴むことができた。さらに、主要なNOTCH2NLトランスクリプトについてのクローニング及び、タンパク質レベルでの機能解析を進めることができており、従来わかっていなかった分子機能がわかりつつある。さらにNOTCH2NLは神経幹細胞から分化後のニューロンまで、多様な分化段階の脳細胞において発現することがわかっていたが、詳細な分子機能解析は神経幹細胞においてしかなされていなかった。今回、新たにニューロンにおける機能解析を進めており、ニューロンの成熟についての新たな分子機能の一端を見出しており、今後の更なる解析により、より分子機能や進化的制約を解き明かすことができると考えられる。一方で、コロナ対策のために予定していた実験的解析を行えていない部分が生じているため、次年度においてはより加速度的に進捗を図る予定である。

今後の研究の推進方策

「NOTCH2NL遺伝子レパートリーの個人差を知るための解析(計画1)」では、前年度の解析により同定した個人間やアリル間で多様性を示す多型サイトについて、個人ゲノムデータを解析することにより個々のサイトにかかる進化的制約や、疾患との関連性について解析を進める。 特に少数の多型サイトについてはアミノ酸置換を伴い、機能的な変更が強く示唆されることからより重点的に解析する。
「NOTCH2NLパラログ・バリアントの神経幹細胞における分子機能解析(計画2)」では、計画1において発見された機能的意義のある変異と疑われる、より重要度の高い少数のサイトについて、実験的に分子機能解析を行う。NOTCH2NLタンパク質の翻訳後修飾状態を変化させる可能性のある特定のサイトについてNotchシグナル関連分子との相互作用や、大脳皮質発生における分子機能の解析を始めており、この解析を完結させ 、解析対象をより多くのサイトに広げる。
「主要NOTCH2NL遺伝子型の神経回路形成における機能解析(計画3)」では、計画1、2で発見、分子機能検証を行ったNOTCH2NLの遺伝子多型に ついてニューロンにおける機能検証を進める。NOTCH2NLの神経幹細胞における機能については研究が進展してきたが、分化後のニューロンにおける役割は調べられていない。しかし、NOTCH2NL遺伝子は成熟過程のヒト大脳皮質ニューロンにおいて転写されていることが確認できており、ヒト固有の神経成熟プロセスを制御する可能性が考えられることから、マウス大脳皮質をモデルにニューロンにおけるNOTCH2NLの機能解析を進める。マウス大脳皮質錐体細胞への強制発現実験を開始しており、樹状突起形態等の表現型に変化が見られるため、これらの表現型について詳細な定量解析を行い、NOTCH2NL遺伝子型により引き起こされる脳発達の「揺らぎ」を解明する。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 1q21.1 distal copy number variants are associated with cerebral and cognitive alterations in humans2021

    • 著者名/発表者名
      Ida E. Sonderby et al
    • 雑誌名

      Translational Psychiatry

      巻: 11 ページ: 1-16

    • DOI

      10.1038/s41398-021-01213-0

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Spatial and temporal diversity of DCLK1 isoforms in developing mouse brain2021

    • 著者名/発表者名
      Bergoglio Emilia、Suzuki Ikuo K.、Togashi Kazuya、Tsuji Masato、Takeuchi Shunsuke、Koizumi Hiroyuki、Emoto Kazuo
    • 雑誌名

      Neuroscience Research

      巻: - ページ: -

    • DOI

      10.1016/j.neures.2020.12.004

    • 査読あり
  • [雑誌論文] YIPF5 mutations cause neonatal diabetes and microcephaly through endoplasmic reticulum stress2020

    • 著者名/発表者名
      De Franco Elisa、...、Suzuki Ikuo、Flanagan Sarah E.、Vanderhaeghen Pierre、Sen?e Val?rie、Julier C?cile、Marchetti Piero、Eizirik Decio L.、Ellard Sian、Saarim?ki-Vire Jonna、Otonkoski Timo、Cnop Miriam、Hattersley Andrew T.
    • 雑誌名

      Journal of Clinical Investigation

      巻: 130 ページ: 6338~6353

    • DOI

      10.1172/JCI141455

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 脳発達から人間性の起原を探る2020

    • 著者名/発表者名
      鈴木郁夫
    • 学会等名
      日本進化学会年会 夏の学校
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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