指と指間の分離は、両生類では細胞の増殖速度の違いによって行われるが、羊膜類になると「指間細胞死」によって行われるようになる。我々は、四肢動物が「大気中の酸素」に曝されると、指間細胞死が促されるという成果を得た。さらに両生類であっても、高い酸化ストレスに曝されると指間に細胞死が誘発されることが明らかとなったが、両生類の指間細胞死は一部の細胞にとどまり、パターン形成にはほとんど影響を与えていなかった。これらの結果は、指間には元々細胞死が生じうる分子的な背景は揃っており、両生類では酸化ストレスに応答した可塑的変化として生じた指間細胞死が、羊膜類では四肢のパターン形成に不可欠な発生プログラムへと進化したことを示唆していた。そこで、本研究では、個体発生の「ゆらぎ」として生じた細胞死が、「パターン形成に不可欠な発生プログラム」へと進化した分子的背景に迫ることを目標に研究を行うこととした。 2021年度は、まず、ニワトリ胚の指間で酸化ストレスに応答する経路について検証するために、ニワトリ胚の肢芽を通常酸素濃度条件で培養し、各種ストレス応答経路で働く主要キナーゼの働きを阻害剤で用いて検証した。さらに、指間で酸化ストレスにより活性化される経路を明らかにすることを目的に、通常酸素濃度条件、および、高濃度酸素条件で培養したニワトリ胚の肢芽の指間組織のトランスクリプトーム解析を、大規模解析支援班の重信氏らの協力により遂行し、その結果から、酸化ストレスにより、可塑的に発現量が変化する因子を明らかとした。一方、両生類の指間での酸化ストレスに応答した細胞死については、幼生期に指間での細胞死が観察されたエゾアカガエルを題材にした細胞死の実験システムを確立した。
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