研究実績の概要 |
生物の特徴の一つは、胚発生から生体の形態・生理機能の維持まで、エントロピー(乱雑さ)が増加しないことである。特に胚発生過程においては、はじめは単一細胞(受精卵)であったものが細胞分裂を繰り返し、個々の細胞の運命が決定されていくことで生物種特有の体制を作り上げていく。このような胚の秩序立った組織化の背景にはどのようなメカニズムが存在しているのだろうか?また、そのようなメカニズムは進化の過程でどれくらい変化しうるのだろうか?本研究課題ではゼブラフィッシュ胚から抽出した細胞塊を用いて、自己組織化過程における細胞の挙動と極性の確立について迫ることを目的としている。 本年度においてはまず先行研究において報告のある、ゼブラフィッシュ胚から抽出した細胞塊を自己組織化させる作成法を再現し、その作成法を確立することを目指した。近年、二つの研究グループからゼブラフィッシュ胚を用いた自己組織化細胞塊の作出法が報告された(Fulton et al., Curr Biol. 2020, Schauer et al., eLife 2020)。これら2つのプロトコルを追試した結果、後者の先行研究の作成法がより高確率で自己組織化細胞塊を作成できることを見出し、以降この作成法を用いた。 次に自己組織化細胞塊を構成する個々の細胞をkaedeレポーターによるphotoconversionを用いてx, y, z, tについての4次元イメージングをおこなった。標識した細胞について平均二乗変異解析をおこなったところ、個々の細胞はブラウン運動的な挙動と方向性の持った挙動の両方を併せ持つこと、また移動範囲としては多くが細胞一つ分に留まることが明らかとなった。 さらに、隣接した細胞が同調して細胞分裂をすること(細胞間の時空間的協調性)、ブレブと呼ばれる細胞膜の膨出を示すものなど、特徴的な形質も自己組織化過程において観察された。
|