二種類のネッタイツメガエル近交系統(ナイジェリア系統とコートジボワール系統)を用いて、初期原腸胚の1胚RNA-seq解析を行い、5つの兄弟胚間での発現量のばらつき(≒揺らぎ)を定量化した。同様の解析を各系統で独立に5回行ったところ、兄弟胚間の揺らぎが、同一系統の異なる実験群間および系統間の遺伝子発現変動と有意な相関関係があることを見出した。この結果は、発現の揺らぎの大きさと、環境応答・進化応答の大きさに相関があることを意味している。発現の揺らぎが大きい遺伝子群には、自然免疫関連遺伝子や発生制御遺伝子が含まれており、これらの遺伝子が環境応答や胚発生の頑健性に関与している可能性が示された。 さらに、脊椎動物初期胚の頭部形成を担う転写因子Otx2/5をノックダウンした胚のRNA-seq解析も行った。Otx2/5ノックダウン胚とコントロール胚の間で発現変動する遺伝子を調べたところ、Otx2/5下流で働く転写因子の発現変動パターンが、実験群間で大きく変動することが示された。この結果は、頭部形成におけるOtx2/5下流の遺伝子制御ネットワークが種内でも多様性を持っており、進化の土壌となっていることを示唆している。 現在、異なる発生ステージ(初期原腸胚、後期原腸胚、神経胚、咽頭胚、オタマジャクシ幼生)での同様の1胚RNA-seq解析、RNA-seqの技術誤差を測定するためのプール―アリコートRNA-seq解析、親ガエルの全ゲノムシークエンスデータとの統合解析を進めており、既存の遺伝子発現制御領域のデータと関連付けて、遺伝子発現の揺らぎをもたらす仕組みと、遺伝子制御ネットワークの進化との関係性を明らかにしようとしている。
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