研究領域 | 植物の生命力を支える多能性幹細胞の基盤原理 |
研究課題/領域番号 |
20H04889
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
相田 光宏 熊本大学, 国際先端科学技術研究機構, 教授 (90311787)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 胚発生 / 茎頂分裂組織 / オーキシン / サイトカイニン / 転写因子 |
研究実績の概要 |
CUC2およびCUC3遺伝子と、オーキシンの生合成および応答に関わる遺伝子との相互作用の解析を進めた。これまでにオーキシンの生合成遺伝子であるYUC1およびYUC4の発現を促進することを明らかにしているが、今回新たにCUCとYUCとの遺伝的な相互作用の解析を行ったところ、CUC遺伝子の機能が低下した変異体であるcuc2 cuc3背景では、子葉境界部におけるオーキシンの生合成が胚頂端部の正常な発生に阻害的に働くことを見出した。一方、胚珠培養系を用いたオーキシンの投与実験から、CUC2とCUC3が境界部におけるオーキシン応答を抑制することが示唆された。さらにオーキシン応答の制御因子であるIAA18とMP/ARF5の発現解析および遺伝学的な解析から、CUC2とCUC3が子葉境界部におけるIAA18の発現の促進を介してMP/ARF5タンパク質の活性を抑制し、それによって境界部形成を促進することが示唆された。 これらと並行して、TCSnレポーターを用いた胚におけるサイトカイニン応答部位の解析を行ったところ、予定茎頂分裂組織の直下の部分におけるサイトカイニン応答が、cuc2 cuc3およびcuc1 cuc2二重変異体では低下していることがわかった。一方、発芽後の茎頂分裂組織におけるTCSnの発現に対し、CUC1遺伝子が抑制的に働くことも明らかにした。 さらに、胚におけるトランスクリプトーム解析を行うため、野生型、cuc機能喪失変異体、およびCUC過剰発現体の胚サンプルからRNAを取得し、次世代シーケンサーによるRNA-Seq解析を行った。現在、解析結果の分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CUC遺伝子がオーキシン応答性レポーターの発現分布に与える影響について、その分子メカニズムをオーキシンのシグナル伝達機構に対する影響の観点から明らかにすることができた。一方、オーキシン生合成がCUCの下流経路に果たす役割の意義は未だ不明であるが、極性輸送の制御と複合的に生合成が働くとの仮説を元に、更に解析を進めている。また、胚におけるオーキシンそのものの分布を明らかにするためにR2D2レポーター系統を入手して解析を進めていたが、入手した系統でのレポーターの発現が極めて不安定であったため、解析には不向きと判断し、独自に改変したR2D2レポーター遺伝子を構築して形質転換を行った。現在ラインを選抜中であり、次年度に改めて解析を進める予定である。一方、サイトカイニン応答性レポーターに対するCUC遺伝子の影響について、ベースとなるデータを得ることができた。現在トランスクリプトームデータを用いて、CUCにより制御されるサイトカイニン経路の候補因子を探索中である。
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今後の研究の推進方策 |
CUCによるオーキシン経路の複合的な制御機構の解明をすすめるため、今年度はオーキシンの輸送経路への影響を集中的に解析する。極性輸送の中心的因子であるPIN1に関しては、抗体染色とレポーターの両面から局在解析をすすめるとともに、細胞内でのPIN1タンパク質の極性を定量化するための解析手法の開発をすすめる。さらに、PIN1制御因子について、いくつかの候補遺伝子に絞ってCUC遺伝子との関係を調べる。サイトカイニン経路に関しては、既知の生合成・応答関係の遺伝子について、トランスクリプトームデータを参考にして候補を絞り、CUC遺伝子との関係についての解析を進めていく。
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