公募研究
陸上植物は、傷害刺激に応答して分化細胞から幹細胞を新生させ、新しい器官や個体を再生させることがある。本研究ではヒメツリガネゴケを用いて、傷害刺激による幹細胞化誘導転写因子をコードするSTEMIN1遺伝子の発現制御、および、STEMIN1によるクロマチン修飾変化を引き起こす分子機構の解明を目指している。本年度は以下の研究を実施した。(1)DNA塩基除去修復に関わるXRCC1遺伝子を欠失させると、STEMIN1発現誘導による幹細胞化が有意に遅れた。また切断葉において、XRCC1タンパク質は幹細胞化する細胞のみで蓄積し、その遺伝子欠失株では切断による幹細胞化が遅れた。そこでSTEMIN1発現誘導による幹細胞化におけるDNA修復とクロマチン修飾、特に転写抑制に関わるH3K27me3修飾との関係を調べるため、XRCC1遺伝子を欠失させたSTEMIN1発現誘導株を使ったChIP-seq解析の実験条件を確立し、サンプリングを行った。(2)ヒメツリガネゴケのGH3遺伝子を茎葉体に異所的に発現させると、切断刺激無しにSTEMIN1遺伝子が発現したことから、オーキシンレベルの一過的な低減によりSTEMIN1遺伝子の発現が誘導されることが示唆された。そこで、幹細胞化におけるオーキシンレベル変化を調べるため、時空間的に高解像度なR2D2オーキシンセンサーをヒメツリガネゴケに導入した。しかしながら当初の想定に反して、R2D2オーキシンセンサーのシグナルが弱くオーキシンレベル変化の定量が困難であることが判明した。そこでR2D2オーキシンセンサーの改良を開始した。(3)STEMIN1発現誘導によるヒストン修飾変化、DNA損傷誘導の分子機構を調べるため、近位ビオチン化ラベル法を用いたSTEMIN1結合因子の探索条件を確立した。
2: おおむね順調に進展している
幹細胞化におけるオーキシンレベル変化を調べるため、R2D2オーキシンセンサーラインを作製したが、当初の想定に反して、ヒメツリガネゴケの茎葉体でのオーキシンセンサーのシグナルが弱いことが判明した。オーキシンセンサーのシグナルが弱いと、STEMIN1発現前後のオーキシンレベル変化の定量化ができないが、その原因を特定することができたため、R2D2オーキシンセンサー改良の目処がたった。また、STEMIN1結合因子の探索に用いている近位ビオチン化法の実験条件が確立し、候補因子のスクリーニングが可能になったため。
石川が研究全体を統括し、研究協力者とともに実験を行う。(1)STEMIN1発現誘導および傷害誘導性の幹細胞化におけるXRCC1の機能を明らかにするため、XRCC1遺伝子欠失株を用いて、前年度にサンプリングしたChIP-seq解析を行うとともに、RNA -seq解析を行う。(2)オーキシンレベルの低下とSTEMIN1遺伝子発現の関係を調べるため、高解像度のR2D2オーキシンセンサーラインを改良して、 幹細胞化におけるオーキシンレベル変化を調べる。また、傷害刺激によって一過的に発現上昇するオーキシン分解酵素GH3の幹細胞化における 機能を解析し、オーキシンレベル変化と幹細胞化の関係を明らかにする。(3)STEMIN1発現誘導によるヒストン修飾変化、DNA損傷誘導の分子機構を調べるため、近位ビオチン化ラベル法を用いたSTEMIN1結合因子の探索を引き続き行う。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
The Plant Journal
巻: 106 ページ: 326~335
10.1111/tpj.15184
Nature Plants
巻: 6 ページ: 1098-1105
10.1038/s41477-020-0745-9
バイオサイエンスとインダストリー
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http://www.nibb.ac.jp/sections/evolutionary_biology_and_biodiversity/hasebe/
http://www.nibb.ac.jp/evodevo/