「ERES (ER exit site)」は哺乳細胞1細胞あたり数百存在する小胞体上の分泌小胞形成「ゾーン」である。ERESにおける小胞の形成機構はよく解析されているが、ERESそのものの形成制御機構は不明な点が多い。ERESは外部環境の変化によって数・大きさが変化するが、分子機構の全貌は未解明である 。また個々のERES間に機能的差異があるかどうかもよくわかっていない。 これまでに研究代表者は、ERESの形成に重要なタンパク質としてTANGO1を同定した。すなわちTANGO1はERES因子の足場タンパク質であるSec16と直接結合することによって、ERESの形成を促すことを明らかにした。さらにTANGO1が細胞分裂期にリン酸化修飾を受けることによって、Sec16との結合が減弱し、ERESが崩壊すること、また細胞分裂が終了するとともに、TANGO1が脱リン酸化されることで、TANGO1とSec16の結合が回復し、これによってERESが再形成されることを明らかにした。 一方で、研究代表者は、ERESの細胞内での局在が細胞環境のpHによって大きく異なることを見出している。すなわち、酸性環境下においてはERESは細胞質全体に散らばって存在するが、塩基性環境下ではゴルジ体近傍に集積して存在する。しかしながら、その詳細なメカニズムは不明であった。 昨年度まで研究代表者は、ERESのpH変化による細胞内局在の変化が、短時間に可逆的に起こる現象であり、タンパク質の発現等を経ずに起こる現象であること、また微小管に依存して起こる現象であることを見出した。本年度において研究代表者は、pH変化によるERESの細胞内局在の変化が、さまざまなERES関連因子の発現抑制によって変化するか検討を行なった。その結果、ERESのpH変化による細胞内局在の変化に関与するERES関連因子をいくつか見出すことができた。
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