研究領域 | 細胞機能を司るオルガネラ・ゾーンの解読 |
研究課題/領域番号 |
20H04904
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中山 和久 京都大学, 薬学研究科, 教授 (40192679)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 繊毛 / 繊毛病 / トランジションゾーン |
研究実績の概要 |
[研究目的] 機械的刺激、発生シグナルの受容と伝達を媒介する繊毛には、特異的な受容体などのタンパク質が局在する。繊毛内部と細胞質を隔てる拡散障壁(トランジション・ゾーン:TZ)は、繊毛への選択的なタンパク質の出入りを制御することによって、繊毛機能を調節する。TZの構成タンパク質の異常は、多岐にわたる症状を呈する繊毛病を引き起こす。しかし、TZ構成タンパク質がどのような機能を果たし、その変異が繊毛病という個体レベルでの表現型をもたらすのかは不明である。本研究では、TZの構築様式と拡散障壁としての機能との相関について研究して、繊毛病における遺伝子型(分子レベル)と表現型(細胞レベル)の間のブラックボックスを解き明かすことによって、繊毛病発症の分子基盤の解明を目指す。 [研究実績の概要] 多数のタンパク質からなる巨大なタンパク質複合体であるTZを構成するタンパク質のうちで、B9ドメインという共通のドメイン構造を有し、Meckel症候群(MKS)などの繊毛病で変異が見られる3つのタンパク質(MKS1、B9D1/MKS9、B9D2/MKS10)に関して、これらのタンパク質が形成する複合体の構築様式を解明するとともに、CRISPR/Cas9システムを用いて樹立したKO細胞を用いた解析によって、これらの複合体形成が拡散障壁としての機能において果たす役割の解明に成功した。これらの研究成果について、国際誌に論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①私たちの研究グループで独自に開発してきた『観るだけでわかるタンパク質間相互作用解析法(VIPアッセイ)』を活用して、MKS1、B9D1、B9D2の間の相互作用の様式(MKS1-B9D2-B9D1)を解明した。 ②MKS1とB9D2に関して、CRISPR/Cas9システムを用いてKO細胞を樹立して表現型を解析した。その結果、これらのタンパク質が機能しないと、TZの拡散障壁としての機能が失われ、繊毛膜タンパク質が繊毛膜に局在できなくなることを証明した。一方、繊毛内に存在する可溶性タンパク質に関しては、KO細胞でも局在に変化は見られないことから、可溶性タンパク質に関してはTZの障壁としての機能は関与しないことが明らかになった。 ③KO細胞にMKS1やB9D2の変異体を発現させるレスキュー実験によって、MKS1-B9D2-B9D1の相互作用が、TZの拡散障壁としての機能にとって必須であることを証明した。 ④超解像顕微鏡解析によって、MKS1、B9D1、B9D2のTZにおける局在の詳細を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、TZを構成するタンパク質のうちで、Meckel症候群(MKS)やBardet-Biedl症候群(BBS)、Joubert症候群(JBTS)などの繊毛病で突然変異が見られるものに関して、突然変異によってどのようなタンパク質間相互作用(繊毛内タンパク質輸送を媒介するIFT装置を構成するタンパク質複合体との相互作用を含む)が異常になるのか、そして細胞レベルでどのような異常(特に、繊毛内タンパク質輸送や繊毛形成の異常)が起こるのかを調べることによって、繊毛病発症の分子基盤の解明を目指す。 具体的には、 ① VIPアッセイを活用して、TZ構成タンパク質とIFT装置を構成するタンパク質の間の相互作用の様式を解明する。 ② MKS、BBS、JBTSなどで変異しているタンパク質に関して、上記の方法によって、どのような相互作用が失われるのかを特定する。 ③ CRISPR/Cas9システムを用いて、上記のタンパク質のノックアウト(KO)細胞を樹立する。 ④ ③で樹立したKO細胞に、野生型タンパク質や②で相互作用を失うことを特定した変異体タンパク質を、レンチウイルスベクターを用いて発現させ、表現型(特に繊毛内タンパク質輸送や繊毛形成)を比較することによって、分子レベルでの相互作用の異常と細胞レベルでの繊毛機能の異常の相関について解析する。 ⑤ 一般的な蛍光顕微鏡法や、超解像イメージング解析を用いて、④で作製した細胞に関してTZなどの微細構造の異常を明らかにする。
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