本研究は、本研究領域が目指す「ストレスに対してオルガネラ内に形成される機能領域の理解」の命題に対し、感染微生物(ストレス)とミトコンドリア(オルガネラ)をキーワードとして、自然免疫時に形成される応答ゾーンの発掘を目指す課題である。該当年度は、ミトコンドリアを介した自然免疫を理解する上で、宿主・ミトコンドリアと寄生虫(トキソプラズマ)との関連性に関する研究を行った。
トキソプラズマは世界人口の約三割程度が感染していると言われる寄生原虫であり、特に免疫不全患者が感染した際には致死性の脳症を引き起こし、妊婦では流産や新生児の水頭症などの先天性疾患を引き起こす危険性がある。重篤化したトキソプラズマ感染症の根治は現状では困難であり、新規治療法の開発が望まれるが、発症や感染拡大メカニズムの全容はあまり分かっていない。先行研究では、トキソプラズマが感染した細胞内において、宿主ミトコンドリアの一部がトキソプラズマ周辺に集積することが報告されている。本研究では、トキソプラズマと宿主ミトコンドリアの隣接ゾーンの解析を行った。帯広畜産大学・原虫病研究センターが保有するトキソプラズマのcDNAライブラリーを用いて、個別の原虫タンパク質とヒト培養細胞内のミトコンドリアとの相互作用を調べた結果、新規のミトコンドリア結合分子(MBP)を見出した。この外来タンパク質はミトコンドリア外膜に局在する脂質調節タンパク質と相互作用し、原虫とミトコンドリアとの隣接ゾーンに局在することが明らかになった。
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