本研究では、雌雄生殖細胞の代謝特性の調節が、性的に未分化な始原生殖細胞における性スペクトラムの確立、およびその後の雌雄生殖細胞分化に与える影響とその制御機構を明らかにすることを目的に研究を行った。その結果、主に以下の2点について成果を得た。 (i) 代謝調節による雌雄生殖細胞の分化制御機構および生理的意義の解明 :当該年度は、雌雄それぞれの始原生殖細胞で特徴的な代謝経路がオス精原幹細胞やメス卵母細胞の分化に寄与する仕組みの解明を目指し、メス卵母細胞分化へのピルビン酸代謝の寄与とその役割を論文にまとめた。さらにオス生殖細胞におけるセリン代謝の作用機序・生理的意義を解析し、代謝調節を介した生殖細胞分化の制御機構の雌雄差を検証した。セリン代謝の律速酵素の生殖細胞特異的コンディショナルノックアウトマウスを用い、生殖巣を様々な胎齢、生後日齢で単離し、生殖細胞の数が増加し、分化が促進されることを示した。ノックアウトマウス由来の生殖細胞のエピゲノム解析・トランスクリプトーム解析を行い、ヒストンのメチル化が低下し、特定の遺伝子発現に影響を及ぼすことが示された。 (ii) 代謝調節による性的に未分化な始原生殖細胞の性分化制御の検証:(i)と並行して、性的に未分化な時期の始原生殖細胞を用いて、雌雄生殖細胞の代謝的特徴の確立と性スペクトラムの成立・制御機構の関連を検証した。胎齢10.5-11.5日の性的に未分化な始原生殖細胞を用い、これまでに特定している雌雄始原生殖細胞の代謝的特徴を、培地組成の変化や代謝調整剤の添加により付与した場合に、雌雄生殖細胞マーカー遺伝子の発現変動や表現型変化が惹起されるかを検証した。その結果、未分化な始原生殖細胞に特定の代謝化合物を添加して培養したところ、遺伝子プロファイル の雄化が確認でき、性スペクトラムへの影響が示唆された。
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