csdは膜翅目昆虫に特有のポリアレリックな(多数の対立遺伝子から成る)性決定遺伝子であり、ヘテロ接合の場合にのみ下流遺伝子feminizer(fem)の雌型スプライシングを誘導し、個体の性を雌にすることが知られているが、その詳細な分子機構は不明である。本研究課題ではこの謎を明らかにするため、我々が独自に開発したin vitroアッセイ系を用いてCsdのスプライシング活性を様々な視点で評価することにした。まず、Csdの活性を対立遺伝子(アレル)毎に定量した結果、活性をもたないアレルを見出すことができた。活性をもたないアレルを組合せヘテロの状態で発現させると、Csdの活性が回復した。Csdとfem遺伝子由来のpre-mRNAとの結合能力を定量した結果、単一アレルの場合と比較してヘテロで発現させた場合の方がpre-mRNAとの結合能が高いことが判明した。このことから、Csdはヘテロ二量体を形成し、それによりfem pre-mRNAとの親和性を高めていることが予想された。この予測は、既往研究によって立てられた仮説と一致した。しかし、多くのCsdは単一アレル状態でもヘテロアレルの場合と同等の活性を示し、fem pre-mRNAとも十分量結合することがわかった。即ちcsdがヘテロの場合にのみ雌決定を誘導するとの定説を覆す結果が得られた。そこでCsdがfemの雄型スプライシングに及ぼす影響を調べたところ、Csdを単一アレルで発現させると、全ての場合においてfemの雄型スプライシングが起きてしまうが、ヘテロの場合はそれが効率よく抑制されることが判明した。以上の結果から、csdはヘテロの場合雄型Femが作られることを抑制することで雌分化を誘導し、csdが単一アレルの場合は雄型雌型両方のFemが作られ、雄型Femが雌型Femの機能を抑制することで雄分化が誘導されるとの新しいモデルが導かれた。
|