我々が作製したイノシトールリン脂質(PIPs)代謝酵素欠損マウスは、卵巣の顆粒膜細胞層にセルトリ細胞様細胞が出現し、卵巣が性転換する。その分子機構として、PIPsの代謝異常と核内受容体の活性化異常を見出している。しかしながらこのシグナル伝達が、生理的条件下(正常のセルトリ細胞)においても機能するのか明らかではない。そこで本研究では、顆粒膜細胞とセルトリ細胞におけるPIPs動態の比較により、生理的条件下におけるPIPs→核内受容体経路の寄与を解明する。 昨年度樹立した不死化セルトリ細胞と不死化顆粒膜細胞を用いて、まずRNA シークエンスによるトランスクリプトーム解析を行った。その結果、Gene OntologyのSex determinationに位置する遺伝子群の発現差を確認することができた。次にPIPs動態について解析したところ、不死化セルトリ細胞と不死化顆粒膜細胞ではPIPs動態に違いがあることを見出した。そこで種々のPIPs代謝酵素阻害剤を作用させたところ、コパンリシブの添加により雄関連遺伝子と核内受容体のターゲット遺伝子の発現レベルが共に低下した。以上の結果から、生理的条件下においてもPIPs→核内受容体経路は機能することが示唆された。 本研究ではさらに、PIPs代謝酵素欠損雌マウスの表現型の一つであるホルモン産生酵素の上昇機構について解析を進めている。ヘテロ核リボヌクレオタンパク質に着目して解析を進めたところ、この分子のノックダウンによりホルモン産生酵素は約70%減少することを見出した。現在この分子とPIPsとの関連について解析を進めている。
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