研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
20H04926
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吉野 剛史 九州大学, 医学研究院, 助教 (10749328)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 卵巣 / オルガノイド / マウス / ES細胞 / 生殖巣体細胞 |
研究実績の概要 |
マウスES細胞からの卵巣オルガノイド構築法を完成させるために、体細胞(FOSLCs)誘導時の代替血清の濃度を検討し、誘導効率を大幅に改善した。また誘導されたFOSLCsは高効率で卵巣オルガノイドを構築できた。 次にFOSLCsの生殖巣形成の至適ステージも検討し、これが出現する誘導5日目(マウス胎齢10.5日目(E10.5)相当))から、誘導6日目(E11.5相当: 性分化直前)が効率よくPGCLCsと卵巣を形成できることが確認した。胚発生過程では同様の時期(E10.5)に生殖細胞が生殖巣に到達することから、このタイミングが卵巣形成に重要である可能性が示唆された。さらにFOSLCsの卵巣形成能はこれを構成する細胞の変遷により支えられていることが、昨年度行ったシングルセルRNA-seqの結果より考えられた。すなわち、誘導6日目のFOSLCsには前駆細胞、間質細胞、生殖細胞の支持細胞が存在しており、この割合の変化が卵巣形性能に影響することが期待された。そこで、これらの分画のために、雌性支持細胞マーカーであるFoxl2-tdTomato(FT)と、間質細胞で発現する表面膜タンパクであるCD140aに注目しFACS解析を行った。その結果、FOSLCsは誘導5日目から6日目にかけて三種類(CD140+/FT-、CD140-/FT-、CD140-/FT+)の細胞に分かれ、これらが、間質細胞、前駆細胞、支持細胞に相当することが、RNA-seq解析により得られた各種マーカーの発現により示された。これらの細胞を別個分取してPGCLCsとの共培養を行ったところ、驚くべきことに支持細胞群が最も卵巣構築能が低いことが明らかとなった。さらに、誘導7日目以降のFOSLCsでは支持細胞の割合が上昇しており、これにより卵巣構築能が低下することが示唆された。以上により卵巣オルガノイド構築法を完成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雌マウスES細胞から誘導した体細胞と生殖細胞を共培養して作成した生殖巣は期待通りに雌性化して卵巣構造を形成した。さらに、ES細胞に挿入した雌性化レポーターであるFoxl2-tdTomatoはにより、雌性化の様子を体外で観察できた。また、FACS解析により、雌性化を定量化できることも確認され、雌性スペクトラムの解析の準備は整った。このため本研究は概ね順調に推移していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、卵巣を再構築できたことから、精巣を構築し、生殖巣性スペクトラムをオルガノイドにより解析する基盤を作る。体細胞誘導に用いるレポーターES細胞として、分化レポーター(Nr5a1-CD271(N271))及び雄性化レポーター(Sox9-GFP(SG))を持つ雄ES細胞を樹立する。雄N271-ES細胞は取得しており、このSox9遺伝子座にEGFPを挿入する。このES細胞を用いて、、雌の体細胞誘導と同様の方法により、雄体細胞を誘導する。胚発生過程では、雌雄の生殖巣の体細胞は自律的に性分化するが、同様に私の方法でも雌の誘導体細胞は性分化することから、雄の誘導細胞も性分化することが期待される。これが生体精巣での分化と同等であるかを調べるために、このES細胞からキメラマウスを作成してレポーター遺伝子の発現を誘導細胞のそれとFACS解析により比較する。誘導細胞の分化が不十分であった場合FGF9などの雄性化サイトカインの処理も検討する。その後、シングルセルRNA-seq解析により分化を評価する。 次に雄PGCLCsとの共培養により精巣を再構築する。PGCLCs誘導に用いるES細胞としてPGC分化レポーターであるBlimp1-Venus(BV), Stella-ECFP(SC)に加えて、精子分化まで発現し続けるMVH-tdTomato(VT)も持つES細胞も樹立する。BVSCレポーターを持つ雄ES細胞は取得しており、このMVH遺伝子座にtdTomatoを挿入する。その後、誘導体細胞とPGCLCsを共培養して雄生殖巣を構築し体外培養により精巣オルガノイドを形成する。この際の培養法は雄の胎児生殖巣体細胞とPGCLCsの培養法を参考にする。再構築精巣の評価は、レポーター遺伝子の発現に加え、精原幹細胞、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞からなる精細管構造の形成及び精原幹細胞の機能性により行う。
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