研究領域 | 性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄 |
研究課題/領域番号 |
20H04927
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩森 巨樹 九州大学, 農学研究院, 准教授 (70647362)
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研究期間 (年度) |
2020-11-19 – 2022-03-31
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キーワード | 性分化 / 性染色体 / ヒストン脱メチル化酵素 / UTX / UTY / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
哺乳動物の性は性染色体の遺伝的性により決定され、Sryが雄性性決定遺伝子として同定されている。しかし、Sryは哺乳類特有の性決定遺伝子であり、単孔類や一部の齧歯類、他の種類の動物ではSryが存在せず、正常な性スペクトラムの構築には性染色体上遺伝子群による別の制御機構の必要性が示唆される。 本研究では性染色体上に位置するヒストン脱メチル化酵素UTX及びUTYに着目する。UTXとUTYは共にヒストンH3K27脱メチル化酵素であるが、活性強度が異なる。また、これまでにH3K27メチル化の制御が種間ならびに性決定様式を超えた性分化制御に関わることが示唆されている。そこで、我々は「UTXとUTYの機能的差異により性スペクトラムが構築され、性分化制御に関与する」との仮説を立てた。本研究ではUTX及びUTYの持つ異なるH3K27脱メチル化活性と組織内局在により構築されるメチル化H3K27スペクトラムが性分化制御に関わるかどうか明らかにすることを目的とし、種を超えた共通原理解明を目指す。 そのために、UTX及びUTYそれぞれの脱メチル化活性を操作し、性染色体構成は変化させずに、H3K27メチル化制御の点で雌型→雄型あるいは雄型→雌型の転換を生じさせたマウスを解析し、性分化に影響があるか解析する。さらに、UTX及びUTYを標識し、組織内局在を解析することで、雌雄間でメチル化H3K27スペクトラムに差のある領域を同定する。以上の実験から得られる結果を統合的に解釈・解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はUTXの活性をUTY型に減弱させるアミノ酸部位を同定し、UTYの活性をUTX型に増強させるアミノ酸部位の候補を3つに絞り、培養細胞を用いて適切なアミノ酸部位を同定した。また、同定したアミノ酸部位に変異を持つマウスを作製するためにCRISPR/Cas9を用いてUTXの場合は三つの塩基に変異を持つUTX活性減弱雌マウス(XXUTX↓)、UTYの場合は二つの塩基にアミノ酸を入れたUTY活性増強雄マウス(XYUTY↑)を作製するゲノム編集を行なった。作製されたゲノム編集マウスは正常に産まれており、雄→雌や雌→雄の性転換は見られなかったが、現在生殖腺、生殖巣、脳の解析を進めている。また、UTX及びUTYを標識したマウスの作製も進めており、タグ配列をノックインしたゲノム編集マウスの作製には成功している。現在、さらに複雑なゲノム編集である蛍光遺伝子ノックインも進めており、研究の進展は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
UTXおよびUTYの活性変換マウスの解析を進め、なんらかの異常・変化があるかどうか明らかにする。また、蛍光遺伝子ノックインの作製を第一に進めるが、並行してタグ配列ノックインマウスの解析を進め、生殖巣・脳におけるUTXおよびUTYの3次元的局在を解析する。局在解析から得られる結果はメチル化H3K27スペクトラムの異なる領域を同定することにつながる。UTXおよびUTYの局在解析から得られるH3K27メチル化スペクトラムの異なる可能性のある領域情報をもとに、UTXおよびUTY活性変換マウスの当該領域を解析するほか、RNA-seq、ChIP-seqによる結果を統合的に解釈してメチル化H3K27スペクトラム制御と性スペクトラムの相関関係を探求していく。
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