本研究は、二次性徴のサイズや組織特異性を特徴付けるアンドロゲン受容体Arの機能発現の分子機構の解明を進めるものである。これまでに、RNA-seqから得たメダカの尻ビレ二次性徴発現領域で特異的に発現する転写因子情報と、ATAC-seqから得たオープンクロマチン領域で高頻度に検出されるシストローム情報を照らし合わせ、Arの機能を制御するであろうパイオニアファクター候補を得ている。本年度は、これらパイオニアファクター候補のノックアウトメダカを作出し表現型解析を行った。候補となったパイオニアファクターの中から、Hoxファミリーに属する遺伝子KO個体でアンドロゲン依存的な二次性徴形質を欠損することを確認した。Arが体や器官内での細胞の位置情報を決定するHoxなどのプレパターン因子との相互作用を得たことで、二次性徴の特定領域での発現が獲得された可能性が示唆された。さらに、アンドロゲンエフェクター遺伝子として同定したlef1遺伝子について、魚類で保存されているエンハンサー領域を検出し、この中にHoxとArの標的シストロームが近接して存在することを見出した。Arの結合をCut&Run-qPCRにて確認したことから、続いてHoxとArのゲノム上の共局在をCut&Run反応で検出するためのツールとして、候補Hox遺伝子をタグタンパク質との融合遺伝子として発現するメダカ系統の作出を進めた。また、二次性徴のサイズ調節の制御機構を明らかにするために、インドネシア産セレベンシスメダカとニホンメダカの二次性徴形質の表現型及び遺伝子発現の比較解析を行い、アンドロゲン応答能の異なる遺伝子群を抽出した。ハイブリッド系統におけるアリル特異的な遺伝子発現量比や阻害剤投与実験などから鰭伸長の種差を導く遺伝的要因を同定し、論文化を進めている。
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