公募研究
様々な疾患の発症等において男女差が存在することが示され、性ホルモンをはじめとする性差を生じる機構と病態との関連が注目されている。肝臓の主要な役割の一つである薬物代謝を担う加水分解酵素Cytochrome P450(CYP)は、そのFamily遺伝子の発現パターンに性差がある。また、ウイルス性肝疾患、脂肪肝炎などの慢性肝炎や肝癌等の発病にも性差が関連している。しかし、肝臓の性スペクトラムを形成する分子メカニズムの詳細は未だ明らかでない。申請者は文部科学省科学研究費や財団研究助成等の交付を受け、肝幹細胞の分化・増殖機構の解析を行ない、その成果として肝前駆細胞の純化・培養系を用いたスクリーニングから肝機能制御因子B-cell lymphoma 6 (Bcl6) を同定している。我々が開発した肝特異的性転換マウス(Bcl6-LKOマウス)を用いて、肝機能の性差と性ホルモンとの関係や肝性差を生み出す分子メカニズムを解析するとともに、性差制御を利用した新規肝疾患治療法を開発することを目的とする。さらに我々は、アデノ随伴ウイルスと肝特異的プロモーターを用いて、肝特異的にBcl6を強制発現するマウスを作製した。このマウスでは、多くの性差関連遺伝子の発現変化が見られた。そこで、本年度は、Bcl6-LKOマウスおよびBcl6肝特異的強制発現マウスの肝臓での網羅的発現解析結果から、Bcl6特異的・非特異的に変化する性差関連因子の探索をおこなった。その結果、肝臓において雌雄差の存在する遺伝子群の約7割がBcl6の制御下にあることを見出した。これらの因子でGO解析の結果などから、薬物代謝や脂肪酸代謝に関する因子が多数変化しており、これらの遺伝子群の組み合わせを性差解析パネルとして同定した。また、性差およびBcl6の制御下にある転写因子群を複数同定した。
2: おおむね順調に進展している
Bcl6-LKOマウスおよびBcl6肝特異的強制発現マウスの肝臓での網羅的発現解析結果から、Bcl6の下流で性差遺伝子発現を制御する可能性のある転写因子群を複数同定した。また、これらの遺伝子の解析法として、AAVを用いた遺伝子強制発現系に加えて、ゲノム編集酵素を用いたin vivo肝特異的遺伝子欠損誘導法を確立した。今後、これらの系を用いて候補因子の機能解析を進める予定である。
2020年度の成果として、AAVと肝特異的プロモーターにゲノム編集酵素を組み合わせることで、任意のタイミングでin vivoで肝特異的に遺伝子欠損を誘導できる系を確立した。そこで、今後はBcl6LKOマウスにこの系を適用することで、Bcl6下流遺伝子の解析をおこなう。
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