肝臓は生体のホメオスタシスなどを制御する重要器官であり、その機能(薬物代謝や脂肪酸代謝など)には性差があることが知られている。我々は肝機能制御に関わる転写因子Bcl6の肝特異的欠損マウスの解析から、Bcl6が肝機能性差の重要な制御因子であることを明らかにしている。そこで、本研究ではBcl6の下流因子がどのように肝機能の性差に関与するのか、特に肝機能に単純な男女差だけでなく、その中間的なスペクトラムが見られるのか解析するとともに、肝性差と肝疾患との病態を明らかにすることを目的とした。 Bcl6肝特異的欠損マウスやオス、メス野生型マウス肝臓間での網羅的発現比較の結果から、Bcl6下流で肝性差を制御する可能性のある転写調節因子群を複数同定した。その一つであるCux2は以前の研究で肝性差に関係することが報告されていた。そこでCux2ノックアウトマウスを作製し解析した結果、一部の肝性差遺伝子のわずかな発現変化が解析されたのみであった。そこで、アデノ随伴ウイルスを用いてゲノム編集酵素Cas9を肝特異的に発現誘導することで、in vivoで迅速に多重遺伝子欠損を誘導可能な系を構築した。これを用いた、Bcl6下流の転写調節因子を複数同時に欠損させたマウスを作製した。その結果、Cux2を含む複数の因子の欠損を誘導することで、肝機能の性差がスペクトラム状に変化することを見出し、Bcl6下流の肝性差制御因子を同定できた。そこで、これらの変化と肝疾患(非アルコール性脂肪肝炎)との関連について解析を行っている。
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