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2020 年度 実績報告書

社会による性スペクトラムの獲得とその神経回路の解明

公募研究

研究領域性スペクトラム - 連続する表現型としての雌雄
研究課題/領域番号 20H04932
研究機関麻布大学

研究代表者

菊水 健史  麻布大学, 獣医学部, 教授 (90302596)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワードマウス / 性スペクトラム / 超音波発声 / テストステロン / 集団 / LMT
研究実績の概要

テストステロンは、組織化作用と活性化作用を介してオスの性行動を雄性化する。我々は以前、雄マウスの超音波発声(USV)の放出がテストステロンの組織化作用に依存していることを報告した。成体ではなく周産期および思春期にテストステロンを投与した雌は、雄に比べてUSVの放出が増加した。近年、オスのUSVには様々な音響特性があり、その変化が他のマウスとの行動的な相互作用に関係していることが明らかになりました。この点については、テストステロンによって誘発される詳細な音響特性の変化については十分に解明されていない。ここでは、雌雄のマウスに投与したテストステロンが、USVの音響特性を変調させることを明らかにした。雄と雌では音響特性に明確な違いはなかった。プロピオン酸テストステロン(TP)を投与したオスとメスでは、コントロールのオスとメスに比べてコールの頻度が高かった。呼称を9つのタイプに分類すると、こちらも雄雌間で特徴的な差は見られなかったが、TPは周波数の高い呼称を増加させ、周波数が低く持続時間の短い呼称を減少させていた。また、call type別に遷移分析を行ったところ、統計的に有意な差がないにもかかわらず、TP処理を行った雄と雌は、それぞれ対照の雄と雌と同様の遷移パターンを示した。これらの結果を総合すると、テストステロン処理はオスとメスの両方でUSVの放出を促進するが、TP処理したメスの音響特性は、無傷のオスの音響特性とは異なることが示唆された。
Baron-Cohenらは、「Hyper-androgen」が自閉症スペクトラムの原因と提唱している。このことから、同様の実験をTBX-1の欠損ASDモデルマウスを用いて実施した。同様に周波数の高いCallが多く認められたことから、Hyper androgenと同様の変化であることを見出した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題では、社会的経験、あるいは社会の中でホルモンの値、具体的にはテストステロン値が変化し、その変化がオス動物の性をスペクトラムにすると仮説を立てている。今年度は、まずテストステロンによって、オス型の行動、特にメスとの遭遇時に発する超音波発声の音響特性がどのように変調するのかを調べた。そもそも発声頻度の違い以上に大きな雌雄差を見つけることができなかったが、テストステロン処置により周波数の高い音声が多く発せられたことから、テストステロンによる音響特性の変化が見いだせた。次に必要となる、社会が実際にテストステロンの分泌を変えるのか、の実験のため、ライフログが取得可能なマウスの集団飼育ならびに行動の自動解析装置であるLive mouse trackerを用いて、その集団の変化を解析している。IDの誤認知が3割程度出現し、その状況依存性が見いだせたため、現在はプログラムならびに飼育状況の操作により、その率を1割以下にまで低下させた。また集団飼育の経験の前後において、社会行動や空間認知、個体認知機能の変化が認められたこと、そこには個体差が存在したこと、からも、集団飼育によってマウスは、特徴的な社会構造を形成し、その経験が中枢の「社会性」を変えていることが明らかとなった。今後は、このLMTを用いて、テストステロンの変動ならびに音声変化、それに伴う中枢の変化を明らかにしたい。

今後の研究の推進方策

今後は、LMTを用いて、テストステロンの変動ならびに音声変化、それに伴う中枢の変化を明らかにしたい。
1)集団飼育経験前後でのテストステロンの測定、糞中から抽出したステロイド画分を用いて、ELISA法にて定量。2)オスマウスの社会的順位の決定とその順位に応じた超音波発声の特性を明らかにする。3)集団飼育経験前後での順位の入れ替え、テストステロンの増減を見出す。4)3)の社会内分泌指標と、超音波発声の特性の関連解析5)社会経験を人為的に操作できるマウスの作出。具体的には攻撃性を司る視床下部腹内側核に薬理遺伝学的手法を用いて、人口受容体を発現させ、外部から攻撃性を操作できるマウスを作出。6)攻撃性の変容に伴う、自身ならびに周囲のマウスの社会的順位やテストステロン、超音波発声がどのように変容するかを明らかにする。
7)超音波発声を決定すると思われる扁桃体内側核ならびに視床下部領域における性差と社会経験による変容を解析する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Validation of a newly generated oxytocin antibody for enzyme-linked immunosorbent assays2021

    • 著者名/発表者名
      MURATA Kaori、NAGASAWA Miho、ONAKA Tatsushi、TAKEYAMA Ken-ichi、KIKUSUI Takefumi
    • 雑誌名

      Journal of Veterinary Medical Science

      巻: 83 ページ: 478~481

    • DOI

      10.1292/jvms.20-0723

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The blockade of oxytocin receptors in the paraventricular thalamus reduces maternal crouching behavior over pups in lactating mice2020

    • 著者名/発表者名
      Watarai Akiyuki、Tsutaki Satoko、Nishimori Katsuhiko、Okuyama Teruhiro、Mogi Kazutaka、Kikusui Takefumi
    • 雑誌名

      Neuroscience Letters

      巻: 720 ページ: 134761~134761

    • DOI

      10.1016/j.neulet.2020.134761

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Female C57BL/6 and BALB/c mice differently use the acoustic features of male ultrasonic vocalizations for social preferences2020

    • 著者名/発表者名
      Nomoto Kensaku、Hashiguchi Akiko、Asaba Akari、Osakada Takuya、Kato Masahiro、Koshida Nobuyoshi、Mogi Kazutaka、Kikusui Takefumi
    • 雑誌名

      Experimental Animals

      巻: 69 ページ: 319~325

    • DOI

      10.1538/expanim.19-0119

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Maternal approach behaviors toward neonatal calls are impaired by mother's experiences of raising pups with a risk gene variant for autism2020

    • 著者名/発表者名
      Kato Risa、Machida Akihiro、Nomoto Kensaku、Kang Gina、Hiramoto Takeshi、Tanigaki Kenji、Mogi Kazutaka、Hiroi Noboru、Kikusui Takefumi
    • 雑誌名

      Developmental Psychobiology

      巻: 63 ページ: 108~113

    • DOI

      10.1002/dev.22006

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Testosterone regulates the emission of ultrasonic vocalizations and mounting behavior during different developmental periods in mice2020

    • 著者名/発表者名
      Kikusui Takefumi、Shima Yuichi、Sonobe Miku、Yoshida Yuuki、Nagasawa Miho、Nomoto Kensaku、Mogi Kazutaka
    • 雑誌名

      Developmental Psychobiology

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      10.1002/dev.22045

    • 査読あり
  • [学会発表] 社会内分泌学:社会をつくる内分泌の役割2020

    • 著者名/発表者名
      菊水健史
    • 学会等名
      日本神経科学会
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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