公募研究
本研究は、脂質を基軸に皮膚バリアの恒常性(未病)からその破綻(遷延化)、更には慢性アレルギー(不可逆化)へと移行するプロセスの分子機構を解明することを目的としている。本年度は以下の成果を得た。1. 表皮バリアの統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:脂質代謝関連分子群の欠損マウスのうち、経皮水分蒸散量の増加を指標に皮膚バリアに乱れが生じている系統を表現型スクリーニングし、脂質代謝酵素PLA2G3と脂質受容体(FP, EP4)を皮膚バリア統制に関わる候補分子として選別した。PLA2G3, FP, EP4の各皮膚特異的欠損マウスにアトピー性皮膚炎モデルを施行すると、2型免疫が亢進し、皮膚炎の増悪が見られた。PLA2G3欠損マウスでは角質の再生遅延が認められたが、FPまたはEP4のアゴニストの補充により回復した。PLA2G3欠損マウスの皮膚のシングル細胞RNA-seq解析を実施し、現在解析中である。更に、皮膚疾患に伴い発現誘導される別のPLA2を複数同定し、このうちPLA2G4Eについては欠損マウスの解析を通じ、N-アシルエタノールアミン(NAE)の産生を通じて乾癬の抑制に関わることを見出しつつある。2. マスト細胞微小環境の統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:脂質代謝関連分子群の欠損マウスのうち、皮膚アナフィラキシー応答が変化する系統を表現型スクリーニングし、リゾリン脂質受容体LPAR1をマスト細胞微小環境の統制に関わる候補分子として選別した。線維芽細胞のLPAR1は、LPA合成酵素オートタキシン、PGD2合成酵素L-PGDS、2型サイトカインIL-33の発現誘導を介して、隣接するマスト細胞の成熟を促進することが明らかとなった。この表現型はPLA2G3欠損マウスと類似しており、LPAR1の上流にPLA2G3が位置することを想定している。
2: おおむね順調に進展している
これまでは全身性欠損マウスを用いて皮膚の解析を行ってきたが、前年度中に皮膚特異的欠損マウスを樹立し、その解析を推進したことで、大きな進展があったと言える。一方で、コロナウイルスによる研究制限の影響で一部の解析項目(シングル細胞RNA-seq解析など)については停滞が生じたものの、当初は予想していなかった新しい発見もあり、総合的に見て本研究は概ね順調に進んでいると評価できる。
1. 表皮バリアの統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:表皮のPLA2G3-FP/EP4経路について、各分子の皮膚特異的欠損マウスの解析を継続し、抗原暴露による2型免疫の亢進、アトピー性皮膚炎の発症、更にはアレルギー喘息の増悪へと進展するアレルギーマーチの過程を更に精査する。同定した脂質をマウス皮膚に投与し、表皮バリアの保護作用およびアトピー性皮膚炎の予防効果を検討する。さらに、領域が推進するシングル細胞RNA-seq解析を各欠損マウスの皮膚に応用展開し、脂質に基づく表皮の変容が皮膚全体の炎症細胞社会に及ぼす影響を明らかにする。加えて、PLA2G4E-NAE経路の全体像を明らかにし、皮膚(および他組織)における本経路の生理的意義を解明する。2. マスト細胞微小環境の統制に関わる新しい脂質代謝経路の探索:線維芽細胞のLPAR1によるマスト細胞の成熟調節機構の全貌解明を目指す。LPAR1シグナルが線維芽細胞とマスト細胞の接着に重要であることを見出しており、ここに介在する接着分子を同定する、これに加えて、PLA2G12A欠損マウスにおいて皮膚アナフィラキシー応答が低下することを新たに見出しており、その作用機序を解明する。線維芽細胞より分泌されるPLA2G12Aが細胞外微小環境中で何らかの脂質を産生してマスト細胞の活性化を増強することを予想しており、この責任脂質を同定する。また別途、多系統の脂質関連の欠損マウスやリピドミクス技術などの解析ツールを適宜班員と共有することで、領域の推進に貢献する。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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