公募研究
ホルモンや栄養素といった代謝環境の変化は、直接的に臓器炎症を誘導するだけでなく、迷走神経を介して間接的にも炎症応答を制御する。また、過栄養では、代謝環境変化による迷走神経応答が消失し、恒常的な抑制状態を呈する。過栄養での肝臓慢性炎症として、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が知られているが、NASH発症メカニズムに、過栄養による迷走神経制御異常が関与する可能性が考えられる。迷走神経性の炎症応答制御のNASH発症における役割およびそのメカニズムは、十分に解明されていない。そこで、本研究課題では、「代謝変化に伴う肝臓炎症応答と迷走神経によるその制御の解明」を目的とする。具体的に、本研究課題では、代謝変化に伴う迷走神経性の肝臓炎症制御の役割、肝臓炎症応答の迷走神経による制御のメカニズムを解明する。本年度には、代謝変化に伴う肝臓迷走神経活動変化の解明と、DREADD技術により作出した迷走神経操作マウスを用いて、その迷走神経活動変化が糖・エネルギー代謝に及ぼす影響の解明を行った。迷走神経肝臓枝の活動は、脳室内インスリン投与や経口糖負荷により、負荷後60分より変動し、その変動により肝臓糖産生が抑制されることを見出した。脳室内インスリン投与や経口糖負荷と同様の神経活動変化を、迷走神経操作マウスにおいて再現したとこと、肝糖産生抑制を来し、肝臓でのTnfやIl1遺伝子の発現は変化しなかったが、Il6遺伝子が増加した。これらの知見は、急性の糖代謝変動により肝臓炎症応答が強く影響を受けることを示唆した。高脂肪餌の投与により肥満・インスリン抵抗性・非アルコール性脂肪肝を誘導し、脳室内インスリン投与や経口糖負荷による迷走神経活動変化を評価した。肥満・インスリン抵抗性状態では、これらの刺激による神経活動変化は起こらなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度には、代謝変化に伴う肝臓迷走神経活動変化の解明と、DREADD技術により作出した迷走神経操作マウスを用いて、その迷走神経活動変化が糖・エネルギー代謝に及ぼす影響の解明を行った。迷走神経肝臓枝の活動は、脳室内インスリン投与や経口糖負荷により、負荷後60分より変動し、その変動により肝臓糖産生が抑制されることを見出した。脳室内インスリン投与や経口糖負荷と同様の神経活動変化を、迷走神経操作マウスにおいて再現したとこと、肝糖産生抑制を来し、肝臓でのTnfやIl1遺伝子の発現は変化しなかったが、Il6遺伝子が増加した。これらの知見は、急性の糖代謝変動により肝臓炎症応答が強く影響を受けることを示唆した。高脂肪餌の投与により肥満・インスリン抵抗性・非アルコール性脂肪肝を誘導し、脳室内インスリン投与や経口糖負荷による迷走神経活動変化を評価した。肥満・インスリン抵抗性状態では、これらの刺激による神経活動変化は起こらなかった。今後は、高脂肪餌投与肥満・インスリン抵抗性状態での迷走神経活動操作による肝臓炎症応答への作用の解明の検討を行う。研究計画は、ほぼ予定通りに進んでおり、おおむね順調に進展していると言える。
本研究課題では、DREADD技術により作出した「迷走神経操作マウス」を用いて、1)代謝変化に伴う迷走神経性の肝臓炎症制御の役割、2)肝臓炎症応答の迷走神経制御メカニズムを解明する。今後は、1)代謝変化に伴う迷走神経性の肝臓炎症制御の役割を解明するために、急性代謝変化に伴う肝炎症応答において、迷走神経制御の役割を検討する。具体的には、肝糖取り込み亢進状態により惹起される炎症応答に対し、迷走神経操作を行う。迷走神経活動の増減が、代謝性炎症誘導に及ぼす影響を解明する。さらに、非アルコール性脂肪肝炎誘導条件で、迷走神経活動を操作し、非アルコール性脂肪肝炎の発症・増悪における迷走神経の役割を解明する。2)肝炎症応答の迷走神経制御メカニズムの解明については、アセチルコリンによる迷走神経性炎症制御の役割の解明を行う。ニコチン作用またはムスカリン作用の阻害が、代謝性炎症誘導または非アルコール性脂肪性肝炎の発症・増悪に及ぼす作用を解明する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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