公募研究
ホルモンや栄養素などの代謝環境の変化は、直接的に臓器炎症を誘導するとともに、脳・自律神経を介して間接的に炎症応答を制御する。また、脳・自律神経による炎症応答制御は、生理的な糖エネルギー代謝恒常性維持に中心的な役割を果たしている。迷走神経による炎症応答制御は、脳・肝連関を担っており、肝糖産生を制御する。研究代表者らは、過食・過栄養において、脳・肝連関が破綻すると、肝糖産生の制御障害とともに、脂肪肝の増悪を来すことを見出した。迷走神経は、α7型ニコチン作用を介したクッパー細胞制御を介して、肝糖産生を制御する。井上らは、クッパー細胞α7型ニコチン受容体作用を介した脳・肝連関の障害が、肝糖産生の制御障害のみならず、肝脂肪蓄積・肝炎症を増悪することを見出している。実際に、α7型ニコチン受容体欠損マウスでは、過栄養負荷条件において、脂肪肝と肝慢性炎症の両者が増悪した。脂肪肝における肝慢性炎症に、脂肪化に伴う肝細胞死が関与している。肝細胞の死様式として、炎症誘導作用の弱いアポトーシスと強い溶解性細胞死が知られている。研究代表者らは、過栄養による脂肪肝の重症化に伴い、細胞死様式がアポトーシスから溶解性細胞死へと変化することを見出した。この脂肪肝での細胞死様式の変化は、転写因子ATF3発現量に依存する。ATF3の発現は、軽度脂肪肝では軽微だが、高度脂肪肝では増加する。また、肝臓ATF3欠損マウスでは、脂肪肝での溶解性細胞死が減少し、炎症が軽減し、一方で、肝臓ATF3過剰発現マウスでは、脂肪肝での溶解性細胞死が増加し、炎症が増悪する。肝臓でのATF3発現が、迷走神経活性化障害と密接に関与する。このことは、過栄養における迷走神経性臓器連関の障害が、肝細胞死様式の変化を介し、肝慢性炎症を増悪する可能性を示唆している。
令和3年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
NPJ Syst Biol Appl.
巻: 8 ページ: 6
10.1038/s41540-022-00213-0.
Hepatology
巻: 74 ページ: 1971-1993
10.1002/hep.31872.
https://inoue.w3.kanazawa-u.ac.jp/index.html