研究領域 | 予防を科学する炎症細胞社会学 |
研究課題/領域番号 |
20H04949
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 佳宏 九州大学, 医学研究院, 教授 (70291424)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | NASH / マクロファージ / 1 細胞遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
通常食あるいは高脂肪食を負荷した野生型マウスとMC4R欠損マウスより肝非実質細胞を採取し、マクロファージを中心とする細胞集団を用いて一細胞遺伝子発現解析を実施した。高脂肪食負荷MC4R欠損マウスでは高脂肪食負荷野生型マウスと比較してhCLSを構成すると考えられるCD11c陽性常在性マクロファージには大きな変化は認められなかったが、SPP1を高発現する特徴的なマクロファージ細胞分画が著しく増加していた。Trajectory解析によりこの細胞集団は常在性マクロファージの中でも特徴的な遺伝子発現プロファイルを示すことが明らかになった。SPP1陽性マクロファージは肝実質およびhCLS周囲の一部に存在し、活性化星細胞と近接しており、炎症と線維化をリンクする新しい細胞集団としてNASHの病態進展に関与することが示唆された。 卵巣摘除後(閉経後に相当)の雌性MC4RKOマウスに高脂肪食負荷することにより、閉経後NASHマウスを作製した。このマウスではマクロファージを含む炎症細胞浸潤がより高度であり、特に浸潤性マクロファージが増加していた。常在性マクロファージにおいてはCCL8の発現が亢進しており、浸潤性マクロファージの肝内への遊走に関与している可能性が考えられた。 1型コラーゲンプロモーター支配下にGFPを発現するCol1-GFPマウスを用いたhCLSの同定は困難であったため、高脂肪食負荷によりNASHを発症したMC4RKOマウスに蛍光標識した抗体を経静脈的に投与することで肝臓を未固定・未凍結のまま薄切してhCLSを同定し、hCLS周辺領域をマイクロダイセクション法により分離し高い生存率を維持して十分量の非実質細胞が得られる至適条件を確立した。 急性肝障害モデルマウスを用いて急性肝障害発症の炎症細胞活性化の時間経過を確認し、急性肝障害発症時の非実質細胞の条件を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・NASHの肝臓における炎症細胞社会の時間的変化・空間的変化の解析:NASHモデルマウスを用いた一細胞遺伝子発現解析を行い、特徴的なマクロファージ集団を見出し、現在組織中での空間的な局在とこの細胞集団の特徴について解析を進めている。閉経後NASHマウスを確立し、このマウスにおいても一細胞遺伝子発現解析による病態形成メカニズムを解析中である。hCLS周辺領域をマイクロダイセクション法により分離し高い生存率を維持して十分量の非実質細胞が得られる至適条件を確立し、hCLS構成マクロファージを中心とする非実質細胞の存在比率・活性化状態が明らかとなった。現在遺伝子発現解析を施行し、一細胞遺伝子発現解析に向けた準備を進めている。 ・急性肝障害の肝臓における炎症細胞社会の時空間的変化の解析:急性肝障害モデルマウスにおける炎症細胞活性化の時間経過を明らかにし、現在非実質細胞を用いた一細胞遺伝子発現解析を進めている。炎症細胞の活性化状態と炎症細胞間の相互作用を明らかにすることで、炎症の促進と抑制の分子機構を探索中である。 ・NASH症例と急性肝不全症例を対象とした臨床研究:多数のNASH症例あるいは急性肝障害症例より臨床検体を採取し、遺伝子発現解析や免疫組織学的解析を行っている。NASH症例では血中パラメータ・肝臓脂肪蓄積・hCLS形成・肝線維化の程度などの組織学的変化と遺伝子発現変化との関連性を明らかにしている。急性肝障害症例では、肝生検組織検体の解析や血中サイトカイン濃度の測定により、臨床病態の違いによる炎症細胞の関与の差異について明らかにしている。
|
今後の研究の推進方策 |
・NASHの肝臓における炎症細胞社会の時間的変化・空間的変化の解析:現在閉経後NASHマウスを用いて、マクロファージを含む非実質細胞を用いた一細胞遺伝子発現解析を進めており、炎症細胞社会の経時変化と雄性NASHモデルマウスとの差異を解析する。NASHモデルマウスよりhCLS構成領域とその他の領域を単離し、hCLS構成マクロファージを中心とする非実質細胞の存在比率・活性化状態、遺伝子発現を検討する。上記の結果を踏まえて、炎症細胞の系譜や細胞間相互作用による新しい情報伝達機構を探索する。 ・急性肝障害の肝臓における炎症細胞社会の時空間的変化の解析:現在急性肝障害モデルマウスの非実質細胞を用いた一細胞遺伝子発現解析を進めており、炎症細胞の活性化状態と炎症細胞間の相互作用を解析し、急性肝障害とNASHにおける炎症細胞種の存在比率・活性化状態や情報伝達の差異を明らかにする。 ・NASH症例と急性肝不全症例を対象とした臨床研究:令和2年度までに収集したNASH生検組織検体と急性肝障害生検組織検体を用いて、NASHマウスあるいは急性肝障害マウスの肝臓の1細胞遺伝子発現解析により得られたデータの臨床的妥当性を検証する。
|