研究実績の概要 |
1. これまでC型レクチン受容体(CLR)の一つであるDectin-1が、腸内細菌叢の調節を介してTreg細胞の分化を制御し、腸管の免疫恒常性維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。本研究では腸管以外への影響を調べるために、アレルギー性気道炎症(AAI)に対するDectin-1欠損の影響を調べた。AAI誘導後、リンパ節や気管支肺胞洗浄液に含まれるTreg細胞の割合が、Dectin-1欠損マウスで増加し、AAIを抑制することがわかった(Han et al., J. Immunol., 2021)。この結果、Dectin-1の阻害により、腸管だけでなく、他の臓器の炎症も制御できることがわかった。 2. Tarm1は免疫グロブリンスーパーファミリーの一員で関節炎局所で高発現していたので欠損マウスを作製してその機能を検討した。その結果、この分子は樹状細胞(DC)で発現しており、コラーゲンを認識することにより、DCの成熟、抗原提示に重要な役割を果たしており、この分子を阻害することによりCIAを治療できた(Yabe et al., Nat. Commun., 2021)。この結果は自己免疫疾患の新たな治療標的として注目される。 3.一部のCLR欠損マウスにおいて、DSS誘導大腸炎およびAOM-DSS誘導大腸腫瘍の症状が軽症化することを見出した。この場合、DCからのサイトカイン・ケモカインの産生が大きく異なっており、そのために炎症性細胞の遊走やミエロイド由来制御細胞の分化、腫瘍形成などが抑制されていた。別のCLR欠損マウスでは重症化が認められ、腸内細菌叢が重症化に重要な役割を果たしていることが分かった。このように腸管におけるCLRは感染防御の他に、腸管免疫や腫瘍形成の制御などに多様な活性を持つことが明らかになった。今後これらの作用メカニズムを細胞社会学的観点からさらに詳細に検討する予定である。
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