公募研究
サルコペニアは、損傷と修復のインバランスを背景として発症し、高齢者が生活の質を損なう主因となる。筋肉が損傷を受けると、炎症、筋衛生細胞を主体とした筋再生と組織修復とが同時に起こり、これら3つの機序が時空間的に連携し、協調して制御されることが、恒常性の回復に必須である。ところが、筋損傷後の修復において、炎症・再生・修復を実行する細胞間連携のネットワーク(炎症細胞社会)とその制御機構は明らかではない。本研究は、マクロファージと筋衛生細胞や線維芽細胞の時空間依存的な単細胞間相互作用を理解し、未病状態から適切に介入し、サルコペニアを未然に防ぐ予防策の開発に向けた知識基盤の確立を目的として実施する。初年度はマウス後肢にカルジオトキシンを投与し筋損傷を誘導するモデルを用い、損傷前後の筋間質細胞を対象にシングルセルトランスクリプトーム解析を実施した。その結果、再生途上の筋間質が、筋衛星細胞、線維芽細胞、内皮細胞、単球/マクロファージなどの複数の細胞集団から構成され、各細胞集団が密接に相互作用することを見出した。中でも、骨格筋特異的な組織幹細胞である筋衛星細胞とマクロファージの相互作用、あるいは、線維芽細胞とマクロファージの相互作用が筋再生・修復プロセスの制御に重要である可能性を見出しつつあり、その分子メカニズムの解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
解析は順調に進み、複数のマクロファージサブタイプの同定に成功している。また、同定したサブタイプに選択的な表面マーカーを選択し、ソーティングの手法を確立しようとしている段階である。さらに、線維芽細胞や筋衛星細胞と相互作用する可能性の高い集団を見出しており、全体として研究はおおむね順調に進展していると考えている。
シングルセルトランスクリプトーム解析の結果、特定のマクロファージサブタイプと筋衛星細胞・線維芽細胞の相互作用に重要な分子機序を複数同定している。次年度には、見出したこれらの機序をin vitroで検証する実験をすすめ、その病態生理学的意義を明らかにしてゆきたい。また、これまでの若齢マウスを用いた解析に加え、加齢マウス(2歳令)の解析を実施し、筋損傷後の再生・修復プロセスが加齢によりどのような影響を受けるかを明らかにしてゆきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件)
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