研究実績の概要 |
脳梗塞巣では、脳組織の虚血壊死に伴って脳内に浸潤した免疫細胞が活性化し、炎症細胞社会が構築される。脳梗塞組織ライゼート中の炎症誘導活性を測定した結果、15~25kDaのタンパク質画分に炎症誘導活性を認めた。この画分にはDJ-1タンパク質が多く含まれており、脳梗塞巣では虚血壊死に陥った神経細胞から細胞外へ放出されていることが判明した。DJ-1は脳内に浸潤したマクロファージと接触していることが観察されたが、リコンビナントDJ-1タンパクは培養マクロファージをTLR2、TLR4依存的に活性化することが明らかとなった。DJ-1中和抗体を作製し、脳梗塞モデルマウスに投与したところ、著明な炎症抑制効果と神経保護効果が観察された。このように、DJ-1タンパク質は脳組織に内在する炎症惹起因子であり、脳梗塞後の炎症細胞社会の形成に重要な役割を持つことが明らかとなった(PLOS Biol, in press)。 脳梗塞巣では、組織傷害に伴う炎症期を経て、死細胞の除去や栄養因子の産生が行われる修復期に移行する。このような炎症から修復への転換プロセスにおいては、免疫細胞に作用して炎症を制御する脂質メディエーターの動態が変化する。実際に、脳梗塞巣における脂質の網羅的解析の結果から、リン脂質代謝物が大きく増減しており、これらの中には脳アラキドン酸やプロスタグランジン、ロイコトリエンのような炎症性脂質メディエーターのほか、炎症抑制作用を持つエイコサペント酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の代謝物である抗炎症性の脂質(SPM: specialized pro-resolving lipid mediator)も多く観察された。今後の研究によって、炎症細胞社会を修復へと変化させる脂質の作用の詳細を解明する必要がある。
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