研究実績の概要 |
本研究は、線維化に至る肺組織を構築する炎症細胞社会を野生型および SLC15A3 欠損マウスでの間で比較解析することで、線維化に根幹的役割を果たす細胞集団とその機能を同定することを目的とし、前年度は肺常在マクロファージ(Mf)が線維化の進行に重要な役割を果たすことを見出した。さらに本年度は以下の事項について解析を進めた。 (1) 他モデルによるSLC15A3依存性肺線維化の改善過程の実態把握: ブレオマイシンモデル同様、シリカ誘導性の肺線維症モデルにおいてもSLC15A3欠損マウスが病態改善を示すことを明らかとした。また骨髄キメラの解析によって、このモデルにおいては特に免疫系の細胞が病態進行に重要な役割を果たすことが分かった。 (2) 線維化の過程にMfが果たす役割: scRNA発現解析の結果から、SLC15A3を欠損すると肺Mfの機能が変容することが明らかになった。そこで野生型あるいはSLC15A3 KO Mfをシリカ肺線維症マウスに移入し、線維化病態を解析した結果、SLC15A3 KO Mf移入によって病態が改善したことから、抗線維化の応答はSLC15A3欠損Mfによって誘導されることが示唆された。 (3) SLC15A3依存的な機能変容の原因遺伝子の同定: scRNA発現解析の結果を元に、SLC15A3依存的な機能変容の原因遺伝子としてArg2を同定した。Arg2の阻害剤を投与すると、SLC15A3 KOマウスで起こる線維症病態の改善が見られなくなった。また、SLC15A3, Arg2両方を欠損するマウスを作製し、その骨髄由来のMfをシリカ肺モデルマウスに移入した結果、SLC15A3, Arg2二重欠損Mfの移入は線維化病態を改善できなかった。即ちSLC15A3欠損による肺線維症の改善はArg2依存的であった。 以上の結果と前年度に得られた成果を論文にまとめ、投稿を行った。
|