研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
20H04961
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平野 大輔 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (30790977)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 東南極 / トッテン氷河 / 暖水流入 / 氷床海洋相互作用 / 棚氷底面融解 |
研究実績の概要 |
近年,南極氷床の質量損失が加速しており,全球海水準の上昇が懸念されている。氷床質量損失を加速させている主な要因は「周囲の海」による棚氷底面融解の促進であり,精度の高い海水準変動の将来予測には氷床質量損失に対する海洋の本質的な役割の理解が不可欠である。令和2年度は,東南極トッテン氷河域での顕著な底面融解をもたらす沖合暖水の分布・循環場の解明を中心に取り組んだ。
(1)水産庁「開洋丸」の南極調査航海にて取得したトッテン氷河沖大陸斜面での集中観測データ(2019年2月)と衛星観測データから導出された海洋力学高度データを統合し,沖合から陸棚外縁への暖水輸送プロセスについて調べた。その結果,トッテン氷河沖に定在する複数の渦によって暖水が効率的に陸棚外縁へ輸送されていることが示され,これがトッテン棚氷の顕著な底面融解をもたらす沖合の重要な素過程であることが示唆された。この内容をまとめた学術論文を国際誌に投稿し,現在改訂中である(Hirano et al., Communications Earth & Environment, in revision)。
(2)第61次日本南極地域観測隊で実施したトッテン氷河近傍海域での広域観測データを加え,アイスフロントを含む大陸棚上における暖水分布・循環の特徴を調べた。その結果,沖合起源の暖水は大陸棚上へと広く流入し,主に窪地状の海底地形に沿って循環していること,またその一部が大陸縁辺域に複数存在する深い海底峡谷に沿って最終的にトッテン棚氷下へと流入することが示された。さらに,アイスフロントにおける係留系データの解析や,過去のデータとの比較から,トッテン棚氷下への流入暖水特性が,潮汐から季節(あるいは経年)スケールで変動することが示唆された。また,最新の海底地形データを取り込んだ数値モデル結果の予備解析にも着手し,上記観測結果により示される大陸棚上での暖水循環像を支持する結果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の点を勘案し,おおむね順調に進展していると判断した。 ・当初の計画通り,沖合外洋~大陸棚~トッテン棚氷に至る沖合起源の暖水分布・循環場の特徴について,観測および数値モデル結果から示すことができた。これらの知見をまとめ,1つは国際学術誌に投稿し現在改訂中,もう1つは投稿に向けて準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ感染症拡大の影響を受け,R2年度の日本南極地域観測(JARE)の62次隊で計画していたトッテン海域の海洋観測がキャンセルとなったため,JARE61次隊でトッテン棚氷のアイスフロントに設置した通年係留系2系の回収が実施できなかった。そのため,R3年度のJARE63次隊にて,これらの通年係留系2系の回収を行う予定である。
当初計画では,R3年度に通年係留系による時系列データの解析を行い,棚氷下へ流入する暖水特性の変動性(特に季節スケール)を明らかにする予定であったが,計画を一部変更し,数値モデルとの連携を強化することで,観測データの不足分を数値モデルのアウトプットで補完して解析を行う予定である。
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