研究実績の概要 |
全海水の40%を占める南極底層水は熱と物質の巨大な貯留槽であり、この底層水形成域である南大洋でのCO2の取り込み量は全球の気候や生態系変動を大きく支配する。南大洋縁辺部で、南極底層水に大気から取り込まれる人為起源CO2は海洋吸収量の40%にもなると推定されているが、飽和平衡量に到達する前(非平衡)に海洋内部へと沈み込み、その非平衡量は30%までになるとの予測もある。しかし、観測を基盤としてこの非平衡量を確かめるには至っていない。その最大の理由は、海洋のCO2吸収を把握するための炭酸系物質(全炭酸:DIC、アルカリ度:Alk、pH)の測定が他の観測成分に比べて煩雑であること、さらに、海洋観測船を基盤とせざるを得ない制約条件によりデータ数が時空間的に疎であるためである。このため、南極底層水への人為起源CO2取り込み量は正確に未だ分かっておらず、全球的な気候変動予測の大きなボトルネックとなっている。 本申請では「南極底層水に人為起源CO2はどのくらい取り込まれているのか」という最大の問いに答えるために、2020年度は以下の項目を実施した。(1)南大洋縁辺部における炭酸系物質のパラメタリゼーション(炭酸系物質の関数化:DIC, Alk, pH = f (T, S, DO, Pr); T・S・DO・Prによる炭酸系物質の関数化)の開発を行い、高精度なパラメタリゼーションの開発に成功し、これを基盤に南大洋における炭酸系物質の大気海洋間の非平衡量のパラメタリゼーション化も成功した。(2)同海域の既存海洋水理データ群に適用することで、南大洋縁辺域も含めた南緯30度以南の南大洋における全炭酸物質の時空間高解像度なマッピングに成功した。(3)これらを基盤に、南大洋縁辺部に現在展開されている約200個の自動海洋観測ロボットに応用し、南大洋縁辺域の人為起源二酸化炭素濃度の詳細な分布に着手した。
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