研究領域 | 熱ー水ー物質の巨大リザーバ:全球環境変動を駆動する南大洋・南極氷床 |
研究課題/領域番号 |
20H04965
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安田 一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (80270792)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 南大洋 / 南極周極流 / 乱流 / 鉛直混合 / 海洋大循環 / 水塊 |
研究実績の概要 |
南大洋は、様々な海域から深層水が海面近くまで湧昇し、大きな変質を受け、底層水や中層水となって北半球へ戻り、海洋物質循環を通じて生物生産を制御する、重要な海域である。底層水形成時の変質、深層水が湧昇する際に受ける変質や表層で形成された水塊が北半球へ輸送される際に受ける変質、及び、栄養物質の生物生産への供給量、を定量化するためには、乱流による鉛直混合を求めることが必要である。本研究では、申請者らが独自に開発した高速水温計をCTDに取り付けて乱流混合を定量化する手法を用いて観測を行い、乱流構造と水塊変質・栄養物質の乱流鉛直フラックスと生物生産の関係、を明らかにすることを目的とした研究を行う。2020年度には、研究船みらいMR19-04勝又勝郎首席航海レグ2-3(2019/12月-2020/2月)において取得された、南大洋インド洋セクターを南極大陸付近まで横断した高速水温計による、これまでの微細構造観測に比較して圧倒的に多数の微細水温観測データを用いて、海底まで達する南極周極流を横切る断面の詳細な乱流分布を明らかにした。この微細構造観測から得られた乱流分布と比較することで、鉛直10mスケールで取得されたCTD密度及び流速データから乱流分布を間接的に推定するパラメタリゼーション手法について再検討を行なった。既往の間接手法は、海流が浅瀬を乗り越える海域や近慣性周期の内部波領域で過大評価傾向が指摘され、その修正が求めらている。比較の結果、若干のパラメタ修正によって既存の手法が有効であることを示した他、流速シア・ストレイン比の依存性について、微細観測により整合する結果を与える改良案を提案することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度に計画していた、微細水温観測に基づく南極周極流を横断する乱流分布の実態の解明と、微細水温観測との比較によるファインO(10m)スケールパラメタリゼーション手法の改良は、既往研究に比較して圧倒的に多量の微細構造観測データを用いることで成功した。この微細構造観測データを活用することで、乱流による熱・物質の乱流鉛直フラックスを求めることが可能となる他、改良されたパラメタリゼーションを用いることによって、微細構造観測データは無いが一般的な海洋観測で測定できるO(10m)スケールの水温・塩分・流速観測データがある海域において、乱流強度の推定が可能となる。この成果に加えて、南極大陸に近い、冬季に海氷に覆われる海域における微細水温観測を用いて、高温高塩分の北大西洋深層水の上に、淡水供給と海氷の融解による低温低塩分水が層重する海域で発生する、二重拡散対流による熱輸送を定量化する手法について研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に明らかとなった南大洋インド洋セクターでの乱流分布及び乱流パラメタリゼーションの改良について論文に取りまとめる。白鳳丸KH-20-1航海データなどを活用し、底層水循環に対する乱流の寄与を検討する。また、南大洋季節海氷下で見られた二重拡散対流による熱輸送の強化を明確にするために、二重拡散と乱流・等密度面水平渦拡散とを分離する手法の開発を目指し、観測船みらいのMR-20-4航海において乱流・高速水温計・乱流計搭載フロート・漂流ブイによる観測を行う。また、太平洋やインド洋の深層水が南極周辺で湧昇し、海面で鉄不足のために硝酸に比べてケイ酸が低い亜南極モード水として様々な密度を持つ中層水塊として北半球へ戻り、北太平洋を除く北半球での生物生産構造を決めている、という仮説がある。最も密度が高い(中立密度27.2)亜南極モード水の形成域であり、塩分極小を形成する南極中層水の形成域でもある、南太平洋海域での白鳳丸KH-19-6航海レグ2-3(2019/10-12月)で得られた観測データを用いて、鉛直乱流混合の実態及び亜南極モード水・南極中層水の乱流鉛直混合による変質、亜表層から表層への乱流鉛直混合による栄養物質輸送を算出する。一方比較的軽い密度(中立密度26.7)を40S付近で横切るMR19-04航海レグ3南大洋インド洋区(55E付近、30S-65S)航海、やや重い密度(中立密度26.9)を15-25Sで横切るMR19-6航海レグ2(55E付近、30S-65S)で取得予定の観測データ、さらに重たい密度(中立密度27.1)の形成域である南太平洋(126W付近,53S-66S)を横切る海域でのMR16-9航海の観測データを用いて、亜南極モード水に対する乱流鉛直混合による水塊変質及び栄養塩輸送について検討する。
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