南大洋は、様々な海域から深層水が海面近くまで湧昇し、大きな変質を受け、底層水や中層水となって北半球へ戻り、海洋物質循環を通じて生物生産を制御する、重要な海域である。底層水形成時の変質、深層水が湧昇する際に受ける変質や表層で形成された水塊が北半球へ輸送される際に受ける変質、及び、栄養物質 の生物生産への供給量、を定量化するためには、鉛直混合を定量化することが必要である。本研究では、申請者らが独自に開発した高速水温計をCTDに取り 付けて乱流混合を定量化する手法を用いた観測(研究船みらいMR19-04勝又勝郎首席航海レグ2-3: 2019/11月-2020/2月:インド大陸から南極大陸付近までの南北横断観測、MR21-04北太平洋亜寒帯海域北緯47N東西横断観測2021/7-8月)を行い、インド洋・南極周極流や北太平洋亜寒帯海域を横切る海底に至る詳細な乱流分布を明らかにした。鉛直10mスケールでのCTD密度及び流速データから乱流分布を間接的に推定する手法との比較によって、既往間接手法の有効性・利用限界が明らかとなったほか、流速シア・ストレイン比を一定値を与える簡便な方法によって、鉛直10mスケールの密度場のみからでも、乱流エネルギー散逸率や鉛直拡散係数について妥当な評価ができることを示すことができた。今後この簡便な手法を用いた、南大洋・南極周辺海域・全球での深海に至る乱流分布と、その海洋循環・気候・生態系への影響評価につながることが期待される。また、船を航走させながら、ケーブルの先に取り付けた曳航体に乱流計を取り付け、水平方向の詳細な乱流分布を測定する手法を白鳳丸航海(2022年2-3月)で試行した。この手法は、乱流計を取り付けたAUVによる観測手法のにもつながることが期待される。
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