研究実績の概要 |
衛星搭載型レーダー高度計群(CryoSat-2/SIRAL,Sentinel-3A/SARAL,Sentinel -3B/SARAL, Jason-2/Poseidon-3, Jason-3/Poseidon-3B, Saral/AltiKa)を用いて,これまで不明であった陸棚域を含む南極海における海面力学高度を月平均ベースで算出することに成功した。独自の衛星データセットを構築することで,南極底層水の生成域であるビンセネス湾,近年底面融解が指摘されているトッテン棚氷の沖合だけでなく,同様に底面融解が指摘されるアメリー棚氷や白瀬氷河の沖合にも100から200kmスケールの巨大な海洋渦が定在することが明らかになった。また,トッテン棚氷やアメリー棚氷を有する大陸棚域にも上述の渦とは異なる時計回り循環が存在することも示され,数少ない過去の現場観測結果とも整合的であった。これらの海洋渦は順圧的な流速構造を持つため,衛星観測から導く流速データを用いて中層(300m以深)に存在する周極深層水の行方を追跡が可能である。そこで本研究の海面力学高度データから算出した流速をラグランジュ粒子追跡モデルに適用し,氷床の底面融解の要因である周極深層水の輸送経路をトッテン棚氷周辺海域において調べた。その結果,特にトッテン棚氷やダルトンポリニア沖に定在する渦と大陸棚域の時計回り循環のカップリングによる,大陸棚への効率的な周極深層水の輸送の存在が明らかになった。つまり南極周極流が沿岸に近づき周極深層水を効率的に大陸棚へと輸送する西南極とは異なり,周極流が大陸棚から離れている東南極,かつ氷床が存在する沖合では,定在海洋渦が大陸棚への周極深層水輸送に寄与していることが示唆される。
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